プロ仕様のオーディオインターフェイスの AD Converter の音を聴き比べよう
前置き
これらコンテンツを公開するにあたりご協力いただきました、日本レコーディングエンジニア協会 (JAREC) にお礼申し上げます。理事長の 吉田保 氏のご厚意による許可を頂いております。
AD Converter の音を聴き比べよう
まずは以下の動画をご視聴いただき、以降の内容をお読みください。
動画内容解説
スタジオの中の映像を簡単ですが撮影しております。
スタジオのメインアナログコンソール
今回のメインコンソールは SSL XL 9000K ですが、私は 4000E、4000G、9000J しかまともに触ったことがないので、SSL 9000K に関して特にこれと言ったものを解説はできません。ただし 9000J と基本設計はほとんど変わらないと思います。

9000 Series の特徴としては SuperAnalouge という名称のアナログ回路設計にあります。通常の音響機材に於いて電解コンデンサーは 100% 利用されますが、9000 Series は コンデンザーレス設計となっています。これにより卓越した低歪み性能であるということです。
1976 年、SSL のスタジオコンソールは 4000A が 2 台、4000B の最初の 6 台から始まり、1979 年発表の SSL 4000E が世界的に大ヒットし、これはスタジオコンソールの業界標準となるまで一気に上り詰めました。ちなみに 4000E の凄かった部分として、各チャンネルに Dynamics (Compressor/Gate) セクションが追加された最初のコンソールだったことです。その後 1987 年に 4000G を発表。ちなみに日本で 4000G といったら 4000G+ なことが多く、これは日本仕様を元に作られたらしく 1993 年以降にリリースされたものらしい。そしてすぐに 9000J が 1994 年にリリースされている模様。
年代は資料によって 1〜2 年の誤差があるが、これは展示会などのイベントでリリースを公表した年と実際に販売が開始された年で誤差が出る模様。
SSL は G Bus Compressor が割と有名ですが、G+ や FX 384 などのモデリングが有名です。
スタジオのアナログアウトボード
今回はアナログアウトボードを一切利用していませんが、ダビングや TD 作業に使えるアナログギアが常備設備としてコントロールルームに設置してありました。

Universal Audio の 1176 に関しては「みんなの知らない 1176 の世界」という動画をアップロードしていますので、見てみてください。


比較対象の4台のデバイス
Antelope Audio – Galaxy32
Apogee – Symphony
Avid – MTRX Ⅱ
Focusrite – Red 16Line
全て AVID HDX DSP System 経由

AD Converter Specification
以下仕様書を読み解く
Antelope Audio – Galaxy32
Dynamic Range: 122 dB
THD+N: -116 dB
Galaxy32 に関しては簡易測定を行っている動画が以下にあります。
AVID – MTRX Ⅱ
Dynamic Range: 123 dB
THD+N: < –117 dB @ –3dBFS / 0.00014%
Apogee – Symphony
Dynamic Range: 122dB (A weighted)
THD+N: -115dB @ 22dBu (0.00020%) unweighted
Focusrite – Red 16Line
Dynamic Range: 119 dB ‘A’-Weighted
THD+N: -102dB (0.0008%) @ -1dBFS
考察
これらスペック情報はあくまで ADC の仕様と思われます。つまり実測値はメーカーごとに異なります。とくに全てのデジタル機材は PCB の基盤設計であり、信号を扱うためにオペアンプを利用するため、メーカーの公証スペック値が測定できることは稀です。
Galaxy32 と Symphony は ESS TECHNOLOGY の ES9842PRO という ADC Tip と思われます。
対して MTRX Ⅱ 用の Line Inputs Module は 8 Line Pristine AD Card であり、現在の ADC Tip がどの型番の製品であるか、推測になります。MTRX 及び MTRX Ⅱ は DAD(デジタルオーディオデンマーク)の AX32 と AX64 の AVID 仕様というか、外見だけ異なるだけで中身は同じ製品になります。つまり、見た目が若干違うだけでモジュールの中身は DAD と同じです。
モジュールは外見も中身も全く一緒ですね。
AX のモジュールは従来は AKM のチップが使われてきたようですが 2021 年、AKM の工場火災による精算設備焼失以降は CS5381 に置き換わったという内容を海外フォーラムで見つけることが出来ました。
この ADC は既に 20 年近く製造販売されている主な ADC Tip であり、CS5381 のスペックは Dynamic Range 120 dB、THD+N -110 dB ではありますが「モノラルで実行し並列にすることである程度のスペックを補うことができます」という意見があります。実際、2ch で 120 dB の Dynamic Range を得ることができるのであれば、モノラル動作で +3 dB の向上が見込めることは別に珍しいことではありません。
つまり CS5381 の Dynamic Range が 123 dB であるという表記は正しい可能性が高いです。
Red 16Line はおそらく Ti (TEXAS Instruments) の TAA5212 もしくは TAA5242 であると思われます。
筆者の所見
筆者もブラインドで聴いたときの印象を語ります。
ただし ABX Test を行ったわけではありません。
皆さんもヘッドフォンなどで目を閉じて 30 秒はじっくり聞いて下さい。
正直、違うのはなんとなくわかるけど、何が違うのかはよくわからない、という感想を殆どの方が抱くだろう。いくつかポイントを教えておく。
- デバイスの重心の違いを聴く
これは音のバランスが低域か高域どちらに偏っているか、を感じること。このバランスの違いで低域の聞こえ方、高域の聴こえ方に違いがある。 - ステレオフィールドの違いを聴く
On Mic の音である各楽器の近さ、遠さ、というようなイメージを聴く。これは厳密には 距離感ではなく、音の立ち上がりと減衰の仕方が異なるわけであるが、その違いを聴いてみる。 - 音の前後の動きを聴く
演奏方法や表現の変化により、音が微妙に動くのを感じるか聴いてみる。特にリバーブディティールが全てのデバイスで微妙に異なって聴こえるので、リバーブの乗りの良さみたいなものも聴いてみてほしい。 - 中域の濁りに意識して聴いてみること
各デバイスで一番違うのは中域の解像度である。ここの帯域のピーク感 (別にピークじゃないんだけど) というか耳にいやらしく残る音が強いか弱いかを聴いてみる。 - ノイズフロア、雑音の違いを聴く
それぞれの雑音(ノイズフロア)の違いを聴いてみること、S/N に関してはマイクの等価ノイズや SSL のセルフノイズがあるので同じような S/N ですが、雑音の傾向が違うので雑音(ノイズフロア)により音がどう違って聞こえるか考察してみてください。
デバイス A
S/N (Background noise) が一番印象的に聴こえた、S/N が他 3 つと比べて異なる傾向がある。
ほんのすこーしだが、歪みっぽく聴こえ、若干レンジが狭い印象でかつ、中域の解像度が若干低いように感じる。ステレオフィールドもほんの少しだけ狭く感じるが、残り 3 つのデバイスが突出していると考えよう。
ただ、元気な感じがして結構好きな人もいるのではないだろうか。なんていうか「割とよく聴くなって音」という感じで親近感がある人も多いかもしれない。
デバイス B
ステレオフィールドが一番異なるデバイス。左右に広さが変動するようなイメージ。奥行きというか音の揺れが大きく生っぽいってやつ。
高域に関して他のデバイスとは一番異なり、わずかにゆるいローパスがかかっているように感じるが、他の 3 つが高域の伸びは同じような印象だから相対的にそう聞こえるかもしれない。ただロールオフ感は個人的にはかなり感じる。だからなのか低域の印象が違って聴こえる。
中域のディティールは一番スッキリしており、嫌な感じはないが、一番大人しく聞こえる気がする。歪みが少ないわけじゃないと思うが、少なく感じる。
デバイス C
解像度というか、音の良さ、みたいな指標があれば一番いいかもしれない。音が近く聞こえるやつ。その代わりリバーブディティールが少し感じづらい、ステレオフィールドや Depth が少しだけ少ない気がする。
中域の雑さが若干感じる。ちょっとピークのような音が多い印象だが、これは歪みが大きいことに由来しそうな音で、これが「近さ」や「いい音」に関連するんだろうか、と思ったり。
みんなが「一番音がいい」と言いそうな音ではあると思う。
デバイス D
中域の解像度も程よく、中高域の出方も強いがいやらしくない感じでバランスもいい気がする、が C とかなり傾向が近い気がする。近い音の印象。ただ、Depth が無いとか広がりが少ないとかではない。歪みも多いとは感じない。各デバイス、スペック上はかなり低歪みなんだけど、それ以上に歪んで聴こえるなって感じはする。
個人的には 4つの中で一番無難だと感じた。個性がないわけじゃなくて、こいつは好きなそうな人も多いだろうなって言う感じ。
A B C D の正解
答えはクリックすると見れます。
∇ 正解はここをクリックして表示
- Focusrite – RED 16LINE
- Antelope Audio – Galaxy32
- AVID – MTRXⅡ
- Apogee – Symphony
- Antelope Audio – Galaxy32
- Focusrite – RED 16LINE
- Apogee – Symphony
- AVID – MTRXⅡ