dB (デシベル) という単位について
dB (デジベル) という単位は音を数値で表現したいときに利用されます。例えば音量とか。
この dB という単位は「比」を表すときに利用されます。というか、dB という単位は「比」しか表せません。
dB という単位は 比 を表すことに使用されることが正しく、絶対値を表すことができません。ただし、音響分野ではこの dB を絶対量の表現として利用している、という事実があります。
今回は音楽制作における基礎中の基礎、dB (デシベル) について「どういう認識で制作に向き合えばいいのか」を説明したいと思います。
実はこの dB に関連する動画を 3 つ、YouTube に投稿したので以下を見ても理解度が増える可能性があります。
dB を利用している単位の種類
音楽制作において、非常にややこしい部分は、単位がいっぱいある、ということです。
よく見ることがある単位として、
- dBFS
- dBm
- dBu
- dBSPL
- dBV
- LUFS/LKFS
ざっとこんだけ利用されています。
LUFS/LKFS は例外かもしれませんけど。
ぶっちゃけ覚えるべき単位は dBFS と dBu だけでいいです。
肝心なことは dB は一緒で、その後ろについている単位が重要です。u とか FS とか。後ろに付く単位で測れるものが変わるとおぼえてください。
dBFS は実は物理的な音量とは関係ありません。フルスケールの比のことです。(0 dBFS が最大値となっている) また、dBu は音量とは違うもので電圧の単位となります。
あと、注意しなければいけないこととして、コンピュータ上で扱われる dB はすべて dBFS です。FS という単位が省略されていることを忘れてはいけません。
厳密な話を書くと、ピークメータは dBFS 表記で Gain とか Fader の dB は通常の対数比を表します。0 が最大値の場合のメーターは dBFS で、+ の値まで dB を弄れるものは対数比の dB。このあたりは感覚でわかってください。
dB とは比である
「dB とは比である」ということを理解してください。これはちょっと考えるだけで割と理解できることだと思います。普通に基礎数学的なお話です。
dB には絶対値というものが存在しません。(単位という意味で dB は無次元量であるが「dB = 音量」が世界の常識なので、一般常識とちょっと乖離しているから誤解されやすい)
6 dB は約 2 倍、 10 dB は約 3 倍、12 dB は約 4 倍、 14 dB は約 5 倍、 17 dB は約 7 倍、 18 dB は約 8 倍、 19 dB は約 9 倍、 20 dB は正確に 10 倍、というような関係性がある。
dBFS という単位を皆さんよくご存知かと思います。普通にデジタル領域でこの dB を扱うときには、気にしなくてもいいことですが、私達は現実世界に音を出力します。このときの dBFS ですが、物理的総量がわかりますか? って言うお話です。
0 dBFS という信号があるけど、これの絶対量ってなに? って言われたときあなたは説明できますか? というお話に繋がります。実は dBFS には明確な物理的量はありません。
0 dBFS って単位を現実世界に持ってこようとする人がたくさんおりますが、比べるべき基準となるものがないので、dBFS という単位だけでは現実世界では利用できません。
この時点で 0 dBFS が現実世界においてなんなのか説明できる人がいたら教えて下さい。
絶対値はないと言ったがそれは嘘だ
dB の難しいところは、dB は相対値を表す単位だが、dBu (dBv) は V (ボルト) の絶対値を表現することができる、ということです。(ただし物理量としての音量は dB 自体が単位として利用されているので混同してはいけない、現実とデータ上と電圧でそれぞれ認識を分ける必要がある)
dBu と dBv は表記が違いますが同じものです。
絶対量としてのデシベル
基準となる物理量をあらかじめ決めておくと、物理量を直ちにデシベルでレベル表現できるようになる。これは音響など特定の分野で非常に便利であり多用される。
引用: デジベル – Wikipedia
何が言いたいか、というと、dBu は 0.775 Vr.m.s. のときに 0 dBu と定義されているので、絶対量として利用できるということ。20 dB は丁度 10 倍の比であるため、20 dBu = 7.75 Vr.m.s. となる。
おお、dB を現実世界で利用できそうな気がしてきました。念押ししますが、dBFS も dBu も音量ではなく、それぞれデータ上の数値と電圧の単位です。これを現実世界で使えるように考えます。
機材スペックを見てみる
機材のスペックには実はちゃんと
- 最大出力レベル (0 dBFS):+19 dBu
などの表記がされている。
つまり、dBFS を現実世界に持ち込もうとする場合は、この様に基準の値を知るべき、ということである。あとは dB を省いた計算の世界と一緒だ。
0 dBFS = +19 dBu なら、-19 dBFS のとき 0 dBu となるはずである。
一応計算すると、
+19 dBu = 6.907 V
19 dB = 8.913
6.907 V ÷ 8.913 = 0.775 V
0.775 V = 0 dBu
上記の計算どおり、dBFS と dBu に関係性ができましたね。これを現実世界では利用していきます。
現実世界での利用のされかた
ちょっと話題になった、某ステムの記事は、個人的には問題ないと思いました。おそらく単純な言葉足らずで、仕事している人なら「言いたいことはわかる」程度の間違い文章で実害はほぼないので、騒いでいるのは実務経験のない外野の意見でしょう。(全体のトラックのピークが -20 〜 -16 dBFS に集中するとマスターのピークが -10 dBFS 〜 -6 dBFS くらいになるって言いたかったんじゃないかな。 )
ここでは、それ以外にちらっと見た、-16 dBFS が基準だよって話を少し掘り下げます。この話は現実世界の VU メーター と コンピュータ世界の dBFS の関係が絶対値であるかのように語られたのが発端でした。
確かに VU はデジタルデータの物差しに利用されているような感じですが、0 VU = -16 dBFS が固定値だと思われていたことが問題で、実際は違います。これは dBu と dBFS の関係性が正確に理解していれば、固定ではないことがわかるのです。
-16 dBFS = 0 VU = +4 dBu は日本の JAPRS が決めたリファレンスレベルで別に世界基準ではありません。アメリカの資料では -20 dBFS = 0 VU であることが多いです。ただ、-16 dBFS = 0 VU が浸透しすぎて固定値だと思われてしまった感がある。
重要なことは、dBFS と dBu には明確な関係性はありません。dBFS と dBu の関係性は、それぞれの環境によって変化します。だから一概に、-16 dBFS を基準とするのは間違いですが、難しい説明抜きで、-16 dBFS を基準にしても良いんです。だって VU の基準は自分で調整できるから。アナログ機材を使う人にとって重要なのは dBFS と dBu の関係性です。
業務用機材のリファレンス電圧が +20 dBu である場合が多いため、-16 dBFS が丁度 +4 dBu になる、という事実があります。これは正しくないようです。私が育った環境は -16 dBFS = 0 VU だったため、機器側の問題で -16 dBFS と定義していたと勘違いしていました。
有識者によると 3348 の S/N 比の問題絡みで信号レベルが大きかったようです。ちなみに NHK がなぜ -18 dBFS = 0VU と基準を局内で定めたのかの資料は こちら あります。素晴らしい資料の共有ありがとうございます。
これは書き方が機材の最大出力の話に聞こえちゃったのは問題で、ここではスタジオで設定している DAC の出力レベルのことを指します。
ちなみにスタジオによって DAC 出力 dBu の値は違います。音楽スタジオだと +20 dBu で設定していることが多い印象ですが、これは −16dBFS = 0 VU と定めた JAPRS の影響があります。単純に +4 dBu が 0 VU という話から調整が面倒だから -20 dBFS で +24 dBu か、-16 dBFS で +20 dBu の調整も多い印象。あくまで個人的な感覚で、厳密にはそれぞれの思惑があるはず。
これは単純に -16 dBFS が独り歩きしてしまって浸透しすぎてたものだと思います。ただし、これはあくまで数値上の話でして、ミックスにおける絶対値じゃないという認識が大事。エンジニアによっては +18 dBu、+24 dBu で作業したりしますので、基準はあくまで作業しているエンジニアの頭の中にあります。
例えば、+24 dBu の機材で作業している人は -20 dBFS が +4 dBu で 0 VU になるわけですが、VU メーターは自分で 0 VU の調整ができるものなので、明確な基準となる数値は実はありません。ただし、dBu の値が決まれば、dBFS とのきれいな関係を理解できたと思います。
しかし、これはあくまで業務スタジオの基準の話で、あなたの機材の基準はそこではない場合があります。ですから、自分の機材の最大出力レベルを確認するべき なのです。
各機材のスペックを探る
例えば RME の Babyface Pro FS の機材のスペックを見てみると、
このように、0 dBFS のときの出力レベルが記載されている。アンバラでは出力レベルが変わる。詳しくは RME に直接聞いてくれ。
また Focusrite の Scarlett Series は低めの +15.5 dBu、Pro Series は +19 dBu と若干違う。
他にも Steinberg 製品の場合、
製品によっては 6 dBu、約 2 倍出力レベルが違う。
Antelope Audio は +20 dBu と業務機レベルになると +24 dBu となる。
Presonus の製品仕様を確認すると +18 dBu であった。
Avid の MTRX はモニタートリムにも利用するのか、-60 dBu から 0.1 dB 単位で調節が可能。(これは冗談で、0.1 dB 単位で調整したい特殊な場合もある)
これらはすべて出力の値でした。ちなみにすんごい短絡的な考えですが、大きい電圧が扱える機材ほど音がいいはずです。
もちろん入力にも最大入力レベルがあり、例えば、最大入力 +18 dBu の機材に、最大 +24 dBu 出力の機材を繋げても、6 dB 分の違いが生まれてしまいます。
そのために出力レベルのトリム機能があったりします。業務機器は +18 dBu の機材にも繋げられるように個別に出力レベルを +18 dBu に変更できるものもあります。
ですから、レベルマッチングも含めて、自分の機材が現在、何 dBu で動作しているのかを確認することは非常に大切なことなのです。
ややこしいのはスピーカーに出力するときにボリュームのつまみの単位。通常 dB 表記です。これは最大出力電圧に対して、何 dB 減衰しているか、と考えます。ただし、音量は実測しないと、音量としての dB は観測できないので、あまり深く考える必要はありません。
DAW 上での dBFS の基準の話
これは非常に限られたプラグインのみの機能にはなりますが、「+4 dBu を 何 dBFS に設定しますか?」という項目があります。
例えば、このプラグインの場合、キャリブレーションという設定項目があり、+4 dBu を -12 dBFS 〜 -20 dBFS の間で調整ができます。
このプラグインの目盛りの単位が dBu なので、この値を変えるとスレッショルドの位置が変化します。
また、ProTools の VU メーターはちゃんと 0 VU = -◯◯ dBFS の設定が可能です。コンピュータ上の +4 dBu は -14 dBFS であることが多いような気がします。ただし、最近は -18 dBFS への統一が進んでいる印象です。
まとめ
dBu と dBFS の関係性は実は各環境で異なる、ということを理解できたのではないでしょうか。
正直、dBu と dBFS の関係性を各環境で理解できるだけで、今まで上手く行かなかったレベルキャリブレーションの問題が一気に解決します。
ついでにこれを知っているだけで、なんかエンジニアっぽさが出ます。