ヒップホップが日本で天下を取れなかった理由
非常に挑戦的なタイトルではありますが、内容は決してヒップホップ、日本のヒップホップシーンをディスっているわけではありません。「日本語の音楽シーンと世界のシーンが如何に異なっているか」を、エンジニアの一つの意見として紹介します。私は Hiphop 好きですからね。よく聞きます。
この意見は本当に自分の主観を文字にまとめただけなので、同意出来ない部分は非常に多いでしょう。記事の内容ではなく、記事の「経緯」を理解してください。「どのような視点で音楽を客観的に分析するか」が大事だと思います。これはエンジニアリングに非常に大きく影響を及ぼすと考えています。内容ではなく音楽の違った向かい方の一例です。
知っておくと面白い事実
世界で一番 CD が売れていた時代は 1997-1999年 でした。日本では 1998年 が売上の最高値でした。以下はアメリカのフィジカルの売上のグラフです。日本と大体一緒ですね。
売上自体はアメリカも 1998年 がピークでしたが、2003年くらいまでは音楽バブルでありました。以下に利益グラフがあります。
一応、日本の資料も載せておきます。
気になるのが、この黄金期に一番売上を上げていたアーティストを実は日本人のほとんどが知りません。もちろん日本の音楽業界にいる人も全然知りません。だって 1990 年代後半は日本国内だけで盛り上がっていました。日本の音楽シーンは世界を見る必要性はなかったのです。しかし、他の国はそうではありませんでした。
日本で売上を上げていたアーティストは実はまんべんなくいて、時代の明確な覇者となったアーティストは実は日本には存在しませんし、あまり議論されません。ただし、宇多田ヒカルは個人的には覇者と言っても良いかもしれません。「First Love」は推計 1,000万枚 の売上を誇り、J-pop の頂点であったと思います。
日本はピークに 6,000 億円の売上が会ったのに対して、北米市場は 3兆円 の売上市場規模がありました。5倍です。人口は 3倍 なのに売上は 5倍。もちろんアメリカのアーティストはヨーロッパでも売上がありました。欧米圏で売上が見込めました。
時代のピークを生きたのは誰か?
音楽産業のピークを支えたのは誰か。実は皆、結構知らない。
過去の遺産をリマスター販売して CD セールスを保っていた時期などもあるが、時代のピークをトップで生き抜いたのは「ヒップホップ」である。当時のヒップホップブームの火付け役には「2 パック」等、数々のアーティストの存在があった。
2パックはマイクタイソンの復活試合をラスベガスで観戦し、興奮冷めやまないまま、因縁のギャングに喧嘩を吹っ掛け、その後、すぐに報復の銃撃を食らってこの世を去っている。彼らの死の物語が売上に火を付けた可能性もあるが、生きていても売上を伸ばしていただろう。
非常に複雑な要素が絡み、結果的にラップは時代の覇者となります。当時のラップも過激な詩が問題となっていたが、担当の政治家がイラク戦争に注視することになり、議論は低迷しラップは規制を免れたり、ナップスターという P2P が席巻したりもありました。爆発的に一般の人にヒップホップが普及した原因でもあったと見る文献もあります。炎上商法はアメリカでは日常茶飯事。
時代の覇者はダグモリスかもしれない
JAY-Z、Eminem、Dr. Dre、Kanye West 等のビックネームはすべてワーナーミュージックが傘下におさめていました。当時の CEO ダグモリス は日本では全然有名じゃないかもしれませんが、紛れもなく世界最高のエグゼクティブプロデューサーでした。彼がヒップホップスターをワーナーに集めたのです。
1999年に CD バブル は終焉し、CD 全体の売上が下がったのにも関わらず、音楽バブルは継続し、ヒップホップ音楽は売れ続けました。収益自体は 2003 年まで、上昇を維持したのです。これはヒップホップの凄さを語る上で知っておくべき事実であり、ヒップホップをナンバーワンミュージックに仕立て上げたのは ダグモリス あってのことでしょう。
もちろん当時はネット海賊が暴れまわっていて、それを規制逮捕する側とアンダーグランドネットユーザーとのイタチごっこもありました。それでもヒップホップは売上を維持したのです。
ヒップホップは世界を席巻している
売上は正義です。音楽評価と売上は基本的には比例します。現代ですら R&B とヒップホップの売上が全体の 1/3 もあります。実はロックより売れています。ヒップホップ / R&B は世界で売れているジャンルなのです。
当時のヒップホップの売上を象徴するデータがネットにあります。エミネムは売上記録を次々と打ち立てていました。カニエウエスト も同様に売上記録を未だに作っています。2019 年のことですよ? 音楽ピークを過ぎたら下火になると思えたラップは未だに音楽シーンの最前線にいます。現在においても絶頂期真っ盛りです。
カニエ・ウェスト9作連続首位、エミネムの歴代No.1記録にタイ
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/81811/2
日本でのヒップホップセールス
非常にヒップホップをこよなく愛する方へは申し訳ないのですが、トップセールスを記録したのはごく少数です。しかもラップ曲というより、J-pop アレンジされています。本場のヒップホップのラップとは違います。独自の J-rap に昇華されています。
残念ながら、日本ではヒップホップは天下を取ることは未だに出来ていません。
何故ヒップホップが日本で天下を取れなかったのか
意外と論理的に考察しているサイトが無かったので、昔考えていたことを思い出しながらよく引き合いに出されることも交えて個人的に考察していきます。
お国柄という投げやりな言葉
非常に多様される文化の違いとかお国柄とか、一言で片付けるにはあまりにもひどいので、お国柄を言われる部分を分析したい。
文化の違いというより音楽に触れる機会の違い
たしかに、アメリカでは喧嘩の代わりにラップバトル的な文化がありました。日本でいうと、将棋や麻雀の代打ちみたいなものかな? しかし、ギャングの抗争などを文化、というのはちょっとあれなので、僕の見解では生活に Hiphop 音楽が馴染んでくると、人間はその音楽を受け入れることが出来ます。アメリカにはエミネム世代という言葉があります。
一番わかり易い例が、最近日本で起こった EDM ブーム。実際には 1980 年代後半にも ユーロビートブーム があったのですが、これまで日本で聞かれていなかった音楽が有線放送を介して一気に火がつくという現象が起きました。近年あった EDM もそうです。テレビ等で一般の方が聞く環境がありました。しかも必ず「若い人」がハマります。これ重要。
結局は音に触れる数が多いほどその音楽に魅力を感じるわけで、日本だってヒップホップを流しまくったら皆ヒップホップ聞き好きになる可能性があります。また、80年代後半にはディスコがブームでしたが、クラブで踊るという文化が日本に定着しなかったのはお国柄かもしれません。
ヒップホップはクラブで踊る音楽という感覚があります。日本はカラオケ文化であるので、カラオケでラップを歌うのは確かにハードルが高いかもしれません。
それら以外で、何故日本ではヒップホップに魅力を感じる人が少ないのでしょうか。
言語の違い
非常に重要な部分です。日本語で育っている耳と英語で育っている耳だと、音楽の聞く部分が異なります。リズム感のほとんどは後天的に出来上がると言われています。日本語のリズムと英語のリズム、そして言語を聞くための耳の感覚です。
前にも話ましたが、耳は音楽ではなく、言語を理解するための器官で、音楽を聞くための器官ではありません。日本語の耳と英語の耳では音楽の聞いている音が違うといいます。具体的にはリズムを重視するのか低域を重視するのかなど色々ありますが、耳の構造が違うという意見もあります。
また英詩の音楽を圧倒的に聞けない人種であるとともに、リズムが生活に染み付いていないということが挙げられます。洋楽で売れるのは結構メロディーが好きになるという人が多いのは事実です。これは日本人以外の言語圏の人にも特有の傾向が現れます。日本語は特に言葉の中でリズム変化より音程変化、イントネーションを重視します。日本人速い曲あまり聞けないです。ゆっくりですよね。
英語と日本語の違い
音の長さ (単語) リズム
英語は基本的に 単語1つに1音 です。「Pen」の発音は素早く発音できますが、「えんぴつ」を素早く「えんぴつ」となかなか言えません。それに加え、イントネーションがそのまま「音が増える」原因になりますし、日本語にはたくさんの助詞があり、歌詞に意味を持たせるために「は、が、を」などの 無駄な 1音 が増えてしまいます。
例えば「I like a pen」はリズムを簡単に作れます。単語が 1音 が発音できます。「アイ、ライクア、ペン」と英語は単語の語尾を繋げて発音する言語だから、リズムに乗せても意味が通じやすく、歌詞も聞き取りやすい方です。
それに対して「えんぴつが好き」でリズムを作ろうとしても、音がリズムの邪魔します。リズムに乗せると「えん、ぴつが、すき」という譜割りが違和感が少ないのですが、「えんぴつ」という単語が分割されていて、言語として認識しづらくなります。
また「ぴつが」の「が」がリズムの流れを邪魔しますし、「が」の音が増えてしまいます。言い方を「えん、ぴつ、好き」に変えるとリズムは良くなるのですが、聞き取りづらく、意味が通じにくくなるだけです。日本語は助詞の「が」を繋げて発音出来ないため、リズムが助詞で崩れることが多いです。
助詞を省いたラップが多いのは必然になりますし、テンポは必然的に遅くなります。
単語の音程
ラップは音程を一定にそろえて唱えることが多く、これを日本語に当てはめると日本人にはお経っぽく聞こえてしまうことがあります。これは日本のラッパーが悪いということではなく、言語の特徴ということです。
日本語はイントネーションが単語自体にある言語なので、ラップをする場合、イントネーションが邪魔になりがちです。そのせいで、イントネーションを排除し、音程を一定にして、歌う場合に、お経のように聞こえてしまうのです。普段聞き慣れないイントネーションは違和感の原因になってしまって、すっと耳に入ってこない原因になりがち、だと個人的に考えています。
もちろん中にはこれらを克服している歌手もいますし、スタイルや細かなジャンル違いも、もちろんあります。
韻を踏む
リリックは著作権があるので載せませんが、ラップはよく「韻を踏む」ことに充填を起きます。なぜかというと、韻を踏むことでリズムが生まれるのです。これは英語がある程度できる方にしかわからないかもしれませんが、基本、韻を踏むのは語尾が多いのですが、韻を踏む部分でリズムにアクセントが生まれます。これが心地よく聞こえる場合が非常に多いです。
日本語における「韻を踏む」の行為に関して、日本語は音数自体はすくないので韻を踏みやすい言語ではあるのですが、それが意味を持つような言葉選びと短い単語のでも同じ音を繰り返すことで小節の中のリズムにアクセントを作り出すことが非常に難しい。
サビのキャッチーさ
日本のラップの場合サビがポップ進行になってしまいがちですが、英語のラップはサビでラップができるこの差は大きい。キャッチーなフレーズでもラップ進行できる言語の強さには勝てないと思う。もちろん個人的な意見です。
この話を自分の音楽に活かす方法
重要なのはこの部分。
音楽趣向の形成経緯
人間の音楽の趣向は歳を取るほど固定されます。大人になるまでに聞く音楽が自分の音楽趣向の形成に大きく影響します。
つまり、商業音楽とは常に進化して行かないといけないということです。どこでブームが来るのかはわかりません。これから日本はどんどんグローバル化が進行し、英語の文化流入が激しくなると思います。
EDM や Dubstep、Hardstyle なんてついこの間まで一般の人が聞いていなかったのにも関わらず、ここまで一般の人に受け入れられたのは、単純にその音楽に触れる機会が多くなったということです。
Youtube や Spotify などのストリーミングで海外の音源が簡単に聞けます。どんどん英語が日本でも浸透するはずです。これからもどんどん日本でもラップ音楽が流入してくるはずです。英詩の意味が理解できるとラップはもっと面白い。
たくさん音楽聞くということは現代の子は簡単なので音楽の好き嫌いはなくしたほうが良いです。嫌いは無くしましょう。好きな音楽に没頭するのはありです。
齢を取ると食わず嫌いが直りません!
日本語という言語を分析する
日本語は周波数帯域が他の言語より狭いと語られます。発音を気をつけることは大事かもしれません。もちろん場合によっては崩す必要もあるかもしれませんが。
イントネーションが単語自体に存在します。日本語が難しいのは単語のイントネーションがあること。言葉選びが意外と難しいのです、歌詞は非常に大事です。日本語はスラングが少ないから…
これらを制作の中で意識をする。これはエンジニアの仕事でもあったりする。プロはアクセント辞典を持ち歩いていたりするし。
やはり 日本語 という 言語を奥深くまで勉強すべき。
「もってけ!セーラーふく」は当時高校生ながら、意味不明な楽曲だなぁ、っと思って聞いたことがあるが、あるとき、日本語の歌詞を研究している時に出会ったときは衝撃的だった。
全く歌詞の意味は意味不明かもしれないが、僕は これが作詞家の「日本語ラップ」の1つの回答例 だと、ものすごく心を打たれた。韻を踏む歌詞、ネットスラングやオタクを刺激する単語を使用した、おそらく、今世紀最大の日本語ラップである。
ほとんどの読者がこれってラップなのか? って思うかもしれないが、私は日本で一番ポピュラーなラップだと思う。完璧なまでの完成度 である。
簡単に言うとここまで歌詞をぶっ飛ばさなきゃ日本語でラップをするのは本当に難しいということだ。だから日本語ラップは独自に進化してきている。
全部英詩で歌うから…
そう言われたら僕のこの記事を書いたは意味がない。
ポイントは日本語詩を考えることもかなり重要である。音の流れが譜割りを考えて歌詞を書くことも大事。もちろん表現も大事。もちろん日本語詩を書く時にも日本語の知識が必要。
ラップから学べることがものすごくあることに気づいてほしいです。