史上、最も嫌われ、そして最も求められる効果「歪」

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史上、最も嫌われ、そして最も求められる効果「歪」

史上、最も嫌われ、そして最も求められる効果「歪」 

初めに。

この歪みに関する記事を書くのに非常に時間がかかりました。年明け前から少しづつ書き足して、この分量になりました。この記事を書くに当たり、複数の技術者の協力を得て、情報公開をしていること、感謝いたします。

過去最高に個人的な解釈を初歩的な情報から書き連ねる予定ではありますが、この内容を最後まで読みきれない場合、私の文章力のなさや魅力のなさでしょう。ですが、最低でも知っておく必要があると思われる内容を書くつもりです。

ただ、ほとんどが直接は役に立つ情報ではない、ことを前置きしておきます。あくまで情報は知っておくと便利なことで、実際に上手く活用できるか、はあなた次第であることを前置きとして、伝えておきたいと思います。

今回の書き連ねる内容は別にそんなに難しいことではないと思うのですが、大半の人は立ち位置が違うというか (最もクラシックな部分について) 経験と知識を持っている人が周りにいないとか、もうこれは社会情勢的にしかないことなので、現代では別に知らなくても全然いいんだけど、理解すると私は面白いと思っているので記述しています。

私は才能やセンスがないのでそれ以外の普遍的な情報を仕入れ、それを利用することに重きを於いています。もちろん感覚的なものも非常に大事ですが、実際一つの案件ですべての目指すべき方向性というのは共有できません。ですので、普遍的なものからそれぞれの方向性になんとなく合うのではないかというものを選択し利用するということをしています。また、それ以前に技術屋として最低限のバックグラウンドと、技術側の意見や感覚が理論的で再現性が高いと思うので実行しているだけです。

音を芸術的に捉えられる人達にとってはこの解説は非常に腹立たしい内容になるかもしれませんね。私はあくまで音は物理現象であると、考え捉えているので、例えば「とある現象を発見し、素晴らしい処理ができるようになった」とか「実はとある秘密のプロセスがあって…」とか、そういうことを言っちゃうエンジニアがいたら私は笑っちゃうタイプってだけです。

当たり前ですが、センスや才能がある人は、知識がなくても出音が最高です。ただし、私はセンスや才能がないので、最高の出音を再現できるように頭で考え、それを実行し、再現性が上手に行けば、自分の仮設や理論が正しかったことになり、それを上手く新しいアプローチに利用していきます。

毎度ながら言っていることは、私が述べていることのほとんどが「考え方」や「思考プロセス」が大事で「最終的な出音」は各クリエイターの色それぞれ異なってくるので、音がいいとか悪いとかの尺度で物事をかたることができません。私は情報を利用する目的として「何を使うのか」とか「数値」とか、尺度のわからない「音がいい」という言葉を重視するのではなく「考え方」を重視してほしいと思います。

ここに書いてあることは、事実かどうかや実際に役に立つかどうかはあまり重要ではなく、あなたにとって「困ったときのおまじない」になれば嬉しいです。

通説的な視点から見る歪み


この言葉の意味するところは、ある状況下では「最も最悪な現象」であり、ある状況下では「最も最高な影響を与えるもの」です。

この「ひずみ」と発音する現象は基本的には「最も排除すべき敵」であり、デジタルレコーディングに置き換わった現在の状況では「最もエンジニアがコントロールしたい現象」に変化しました。多分。

ちなみに数十年前に「歪みねぇな」という言葉が流行りましたが、ゆがみという言葉は音響的な意味を説明するときには使われず、光学的な説明をするときの歪みの意味で「ゆがみ」と言うのが一般的らしいです。

漠然と「歪み」という言葉を良く耳にします。最近だと「サチュレーション」という言葉に置き換えて聞くことも増えました。もちろん「ディストーション」や「オーバードライブ」という名称も聞きます。

基本的な原理は全部同じあり、入力レベルオーバーの信号波形 (ハードクリップ状態) のことをディストーション、任意での信号の過大入力や過負荷、過大増幅の出力をオーバードライブ、信号通過における非線形曲線状態になった波形や信号の飽和 (ソフトクリップ状態) をサチュレーション的な意味合いで使われることが多いと思います。なんとなくそれぞれが適度な塩梅で呼ばれ方が異なっていたり、設計者がオーバードライブといえば、オーバードライブなのです。厳密な区別はありません。言葉の定義は相手に伝われば今は重要ではありません。

音楽制作における「歪み」とは元々の信号に歪みを意図的、または不可逆的に加わってしまった状況を言います。基本的に意図しない「歪み」は音楽制作における「最強の敵」で、逆に意図的に加える「歪み」とは「最強の味方になる場合がある」シロモノです。

例えば、DAW 上で 0 dBFS 以上の信号を出力した場合「音が割れて聞こえる」のような表現をすると思いますが、音が割れて聞こえる現象の原因は歪みであるといえます。厳密には元々の出力信号がスピーカーないしヘッドフォン等で変形して出力が原因とも言えるのかな。アンプ側で盛大に歪む場合もあり… すいません、細かいことは今はどうでもいいですね。

また、レコーディングをしているとき、例えば信号入力が過大で、音が「ビリビリ」言うような音が取れる場合があります。これは 0 dBFS 以上の信号入力のために発生したデジタル歪みの場合もあれば、アナログ機器の領域で機材の許容レベルを超えて出力信号が非線形、つまり出力が変形した場合に発生するアナログ歪みって言っていいのかな、大まかにこの二種類が考えられますが、そのような経験をされている方は少なくないと思います。皆さん、適当にゲイン触って割とこのような経験自体はあるはずです。

この状況の「歪み」は 最強の敵 であり、回避しなくてはいけません。

しかし、音楽制作をしていると、なぜか「歪み」がとてもいいと言われる場合があります。後で詳しく解説しますが、アナログ機材の信号通過において「付加された歪み」が音楽的であるとか、音が良く聞こえるとか、複数の信号が混ざりやすくなる (サミング) とか、色々「魔法」みたいな役割を果たす場合があります。

時に心地よいコンプレッション感を与えたり、曲に対して Gule (接着) 効果と呼ばれる効力を発揮したり、理論的には厳密な研究論文結果が出ておらずよく良くわからないけど、多分歪みが良い効果を発揮して、音楽に息を吹き込むものだと解釈されています。

そのため、魔法のような効果を求め、ヴィンテージ機材にロマンを追い求める人や、独自理論を持っている機材メーカーの設計者や、モディファイを行う技術者、信号理論を研究する研究者などたくさんの方がその魅力に取り憑かれ、様々な角度からいろいろな意見があり、まるで「歪み」自体が一神教で多数の宗派がある一種の宗教のように振る舞っているのが「歪み」であります。

私個人は頭では全く説明がつかない「歪み」の魔法のような効果の存在を確認しておりますが、それがアナログ機材でしか再現出来ない高貴なもの、または説明不可な高次なものである、とは思っていません。多分限りなくデジタルで再現できる世の中にはなります。AI、ML、DL など進化が著しいですからね。

確かに、アナログ的な振る舞いは非常に魅力的で、デジタル上で再現が難しく、そして説明難い効果を生み出します。ただし、そこにはもっと基礎的な構造が存在し、アナログデバイスがその再現生を困難にしているボックスなのではないか、と考えると、基礎的な「歪み」の構造を理解することに意味があるのではないか、と考えられると私は思います。

我々の業界では理解できない現象を魔法といったり、オカルトと表現したりしますが、当たり前ですがその効果を制御出来なければ、それは機材に振り回されてるだけの愚かな人とみなせます。ですから、ある程度の推測や音響的な特性や現象から歪みをできるだけ物理数学的に解釈したいと思います。

工学的な視点の歪み


ここでは、一応、工学的に定義されている情報を抑えつつ、エンジニアが実務的に把握してればいいことを述べたいと思います。

一応定義があります。wiki だと…

最初に少し説明した状況と同じですね、アナログ機材を通過すると、いろいろなアナログ素子の応答反応により、入力波形と出力波形に変化が生じる事ですね。ケーブルを通過するだけでも起こりうる現象です。ただし、だいたいの現在のモダンなケーブルや機材においては変化が非常に微量過ぎて人間が知覚出来ないレベルということです。普段は無視や考えなくてもいいものです。

確かにケーブルで音変わるのですが、音響的な意味合いで言うならば音が変わるケーブルとは最悪なケーブルであって、できるだけ線形を維持したいと考えるのが工学的な視点です。

ちなみに人間は 3% だったと思うのですが具体的な数値は忘れましたが、それくらいの変化量でオリジナルから歪んだと認識できる的な話を聞いたことがあります。ですが、実際仕事として何年も歪みに足して敏感になっていると、0.1 % ほどの変化でも「あれ歪んだ?」って認識することはあります。自分の許容を見つけてみてください。

実際は信号の種類によっては、0.01 % (手計算したので全然厳密な数値じゃないです) くらいの歪み率でも感じ取れる場合がある。ただ、その時は音像変化や倍音の周波数変化に脳や耳を集中しているからであって、全体を聞いている状況で意図しない歪みを感じるのは 1% くらいからだと思う。数値はどうでも良くて、厳密な話ではなく、各個人で歪みだって感じる許容を見つけてみてください。

我々が認識できる歪みというは、もし設計上クリアな音色を目指したアナログギアの場合、歪みっぽいと認識出来たその時点でアウトということになります。音響機材の設計理念とか伝送システム上で入力信号に対して明らかに歪みが認識出来る出力が得られた場合、そのシステムは駄目ということになります。

ただ、世の中で販売している製品なら普通は大丈夫なはずです。たまにやばい製品があることは間違いないでしょうが、実音への影響は THD + N なので物によってはフィルター回路で頑張ってノイズを減らしていたり、デジタル設計への工夫とか雑音混入への色々工夫がされています。あとはアナログ設計の部分で非常に低歪みを実現しているものとか、そのへんは私には分からない。

この部分の線引きは非常に重要です。意図的な歪みを付加したい場合 と、できるだけ 完全に歪みを排除したい場合 の二つのパターンがあり、明確にそれぞれの役割を分けるべきです。言っておきますが工学的には「基本的に歪みは害悪」でしかありません。なぜかと言うと考慮しなくていけない複雑な問題の原因となるため、基本的に歪みは排除するようにします。その効果を得たいのに、歪みが邪魔をする、的な側面は多々見受けられます。

音楽的な視点の歪み


しかし、音楽制作に於いては、どうしても設計上回避できない歪みが混入したり、アナログギアの動作回路的に副産物として歪みが発生する場合もあり、それが音楽制作において非常に効果的に働く場合があります。間違えていけないのは、知覚できる歪みは ほとんどの場合で効果的に働かない、ということを忘れてはいけないということです。

特に歪みの重要性の議論が盛んになったのは、おそらく Analog Tape Recorder から Digital Recorder へ転換していく時に盛り上がったと思います。すみません、当時を知らないので聞き伝わった話を聞いて個人的にそう思ったので、厳密なことは知りません。詳しいお話をご存知の方がいらっしゃいましたらご紹介させていただきますのでご連絡ください。

1980 年代末期から徐々にデジタルレコーディングがされるようになり、1990 年代にはかなりのスタジオがデジタルテープレコーダーへ移行、のちに Pro Tools System へ完全移行となりますが、未だに Digital / Analog 論争は付きません。

その音質の原因がアナログテープレコーダーやコンソールミックスとコンピューターオーディオの違いについて言及する人もいます。もちろん、違いは当たり前にあります。1982 年の 10 月まで、全てがアナログで最終的な音楽が発信されていました。TD (Trackdown つまり Master 音源の提出) するまでにかなりの波形変形が発生していたはずです。

アナログコンソールで調整した信号がアナログテープレコーダーへ録音され、そのアナログテープレコーダーの再生音がアナログコンソールといくつかのセクションやアナログギアを通過してマスター信号が完成します。意図せずとも現代の比ではないほど、信号通過における変化が生じたでしょう。もちろん現代で意図的に歪みを足して、当時の楽曲より歪みが多いものは存在するでしょう。

Digital Recorder や Pro Tools が登場するまで、すべての信号がアナログで完結していました。現代のモダンな音楽制作では意図的に歪みを加えることをしない限り、かなりクリアな信号をマスター信号として扱うことが出来ます。またモダンな機材は基本的に (THD+N の数値的に) かなりクリアな設計をしているので、ほぼ歪みません。これらを含めて時代的な背景とアナログとデジタルの差と簡潔に表現出来ます。

(もっとも、狂信的なアナログ信者はそれ以外のオカルト的な効果を語る場合がありますが、ここでは理論的に説明できないため、一切触れません。)

このため、デジタルレコーディング以前の音源のほうが音がいいと論争になる場合もありますが、それはなんというか価値観の違いレベルの話だと思いますが、心地よいと感じたり、音がいいと感じる原因の差は制作スタイルの違い、主に制作段階で不可逆に加わる歪みにあったのではないか、と真面目に議論され、ほとんどそれが業界では信じられています。

歪みとはなにか。


ここでは、音響工学的に説明できる範囲ことだけを解説したいと思います。

歪みとは波形が非線形になることを言い、非線形ってどういうことだっけ? ってなるので、簡単に言うと歪みというのは音の「高調波成分」です。英語でいうと「Overtone」とか「Harmonics」です。日本語で言う「倍音」です。つまり、歪みの正体とは 倍音 です。入力信号に対して、その信号の倍音が付加されることによって魔法のような効果が発生すると考えられてきました。また、それに付随していろいろな効果が現れます。基本的にコンピュータ上では ネガティブな効果 です。

楽器それ自体が基音から発生させる倍音は歪みとは言いませんが、多少の歪み特性をもつ楽器は非常に多くあり、人の声も歪み成分を内包しています。ただ、通常歪みとは音響の機材特性的な意味で使われるため、生楽器の生の音に対して基本は使われません。

対称歪み / 非対称歪み


現代的な制作をする私達はまず、対称歪み非対称歪み を理解しなくてはいけないと思います。これは 非常に個人的な意見 のため、そうは思わない人はさっさと読み飛ばしていいです。

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対称歪みの特性

音1. 良くある歪んでしまった音の例

図3. 上記再生音のスペクトラム。歪んでいる高調波成分は 左上の 2 kHz 以上の塊となった雑音。

図3 の画像はピアノの音の周波数特性を見ている。最初の立ち上がり時に盛大に歪み、そのあとは音は落ち着く。聞き馴染みのある「割れたピアノの音」という感じがするだろう。ですから、立ち上がりの音にのみ、高調波成分が目で見て取れる。立ち上がり以降は音は安定し、基音の倍音成分が徐々に減衰していく。

ちなみに、明らかに倍音じゃなさそうな周波数も見受けられる (倍音周波数の近くに現れるどう見ても変調的な値) が、元々のピアノ信号データ 32-bit float / 48 kHz を DAW 上でレベルオーバー出力させ、24-bit AD/DA の 48 kHz 動作しているデバイスで D/D している (信号戻しているため) 48 kHz 以上の成分が折り返した物が見えている、と思われる。ちなみにこの倍音構成とは異なる周波数の原因が後に語る エイリアシングノイズ であることが示唆できる。

このあたりなにを言っているのかさっぱりな人は、是非以下を熟読いただくことをおすすめいたします。

とーくばっく

図4. ピアノの矩形波の状態は上下ともにバッサリ音が消えているような状況。

上下の終端波形が一直線の波形になっている。これを矩形したと呼ぶことが多い。一応補足的に解説するが、iZotope RX の波形はあくまで数学的な復元サンプル表示をしているために、矩形する波形の末端で多少の復元模様も見られる。理解できない人は理解しなくていいです。

素材によっては対称歪みが非常に有用な場合がありますが、このようなデジタルクリッピング、またはハードクリッピングは基本的に最悪な音に聞こえがちです。この後に Lowpass を通して音を変化させたり、実際のギターキャビネットのように高周波の再生能力が低いスピーカー (拡声器とかかなり近い) で鳴らすことによって、ディストーションギターや声などが思ったより心地よく、または抜けて聞こえたりします。がそれは別の話です。

だから極端に歪ませた場合は内部の Lowpass Filter を通過せさせることに意味があるのはなんとなく理解できてくれるとありがたいし、Lo-Fi な音を作ってくださいとか言われると大体歪ませて Lowpass かけるのは歪んでるけどいやらしくない音に仕上げるためみたいな側面が非常に多いと思う。

オーバーサンプリングと数学的に最適な Lowpass Filter の設計はエイリアス削減の意味もあったりするが、これはエンジニアが干渉出ない部類の場合も多いので、全てを理解する必要はないが知識としてあると内部的な Filter の重要性や利用価値が理解できるようになるといいだろう。

できるだけこのような歪みは何かしらの意図がある場合以外は基本的にというか、絶対に避けましょう。とくに AD/DA 時のデジタルクリッピングは避けないとオーディオマニアに殺されるので、本当に気をつけたほうがいいものでしょう。最近は DA 側の True Peak を考慮して歪が少ない音をリスナーに届けましょう的なガイドラインやチュートリアルも多いですし。

日本では全く話題になってはいませんが、AES が次世代の規格選定において、LUFS と サンプルピーク値の基準を設けており、それに合わせて再生機側の音量調整がされる仕組み (DRC – Dynamic Range Control) を既に発表しており (今はプラットフォーム側調整) 、今後は DA 変換の段階で歪むことはほぼ無くなると言っていいようになる。あとは出力後段のスピーカーアンプやヘッドフォンアンプの性能次第というかなりアナログ設計の実力社会になりそうである。 ま、Mastering という工程が昔は必ずやってたんだよねぇ〜っていう作業になる。今はどうでも話。

詳しい資料は こちら から。

デジタルクリッピングやレベルオーバーは害悪だ〜って少し脅しましたが、もちろん、その特性に似た対称性を利用したプラグインはあります。それらをなるべく破綻しない状況で利用してみましょう。基本的には歪みは悪で間違いありませんが、毒と薬みたいな感じでしょうね。多ければ毒いい塩梅なら薬

図5. Newfangled Audio – Saturate

図5 のプラグインは数学的な歪みを付加することが出来るプラグイン。Newfangled Audio の Saturate。このプラグインはオプション機能でより音楽的なアプローチが可能になるが、基本は数学的なクリッピングを再現するためのプラグインだ。レビューを書いているので読みたい人はこちら

_/ ̄ みたいな表示があるけど、これが対称クリップ (先程のクリッピングの再現と対称性の両方の特性を併せ持つ) 表現だ、波形の終端の形がこんな感じになりますよ〜っていうわかりやすい表現。もちろん、対称性の特性を持つ歪みがすべてこの様な数学的なクリッピングしますよ〜というような特性ではないことを再度言っておく。滑らかに対称的に歪むものもあるのですが、とりあえず数学的な知見から見ていこう。

こちらをいい塩梅で利用した場合は以下の様な音になる。

音2. 対称歪みを利用したピアノ A4 440Hz

職業エンジニアの方であれば、立ち上がり若干歪んでいるというか若干ビビっているっぽいことは理解できるであろうが、全体のバランスとして、さほど気にならない瞬間的な歪みしか聞き取ることはできない。もしくはアタックのビビリ感なのかわからない程度なので、上手く制作の中で「すこーしだけ立ち上がりを強調してみたい」とか「トランジェントの演出のために」とかなどの補正や倍音合成またはピーク削りに使えることがわかるだろう。

ぶっちゃけあまり このピアノには合わない部類の歪み である。ごめん。ただ A4 の基音で準備できた音がこれしかなかったのですまない…

図6. Saturate でハードクリッピング状態、対称歪みを再現。上下の終端波形が矩形している。

以下の音源はオリジナルの A4 440 Hz

音3. オリジナルのピアノサンプル

ちなみにオリジナルの音はこのような音で、音量も少し小さいので比較が無理って思うかもしれないが、立ち上がりに 音2 みたいなピーク音は感じないだろう。まぁ元々アッタク強めだけど。

厳密なオリジナルとの聴き比べはしなくていいです。

なんとなくで感じられれば。多少歪ませた音は 図4 と比べると矩形している割合が少なく、これくらいの対称歪みとハードクリッピングであれば少し音楽的に利用できそうであるなと感じられればそれでいい。瞬間的な音なので曲中ではほとんど気にならないでしょう。

もちろん、ハードクリッピングの量を増やせば同じ様に破綻した音が生成できます。


対称歪みの倍音構成は奇数

また、対称歪み高調波成分は「奇数倍音」となる。以下の画像を参照してみよう。

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非対称歪みの特性

非対称歪みとは「アナログの歪み感のこと」と言い換えてもいいかもしれません。この非対称性のおかげで「アナログの暖かさ」みたいなものの表現につながっていると言う人もいるわけで、アナログ的な歪みの事ってここでは思っちゃっていいです。(ただちゃんと全体を理解してからそう思ってください。)

もちろん、アナログ機材が対称に歪まない、わけではなくて、対称性を維持したまま歪むアナログ機材も非常に多くあります。アナログの場合は周波数特性に応じた歪み特性の変化がある機材もあるので、また複雑なのですが、それら複合的な要素がアナログの良さでもあり、使い時を考える必要性もあるものだとは思います。

良くあるヴィンテージ機材、例えば、真空管マイクの場合、真空管の部品自体にこだわりというか変えがないから同じ音にならないとか言うやつ、あるドコドコ製のある製造時期のある型番の玉じゃないといい音が出ないとか、そういうのは、アナログ素子である真空管の非線形性、非対称性や周波数特性由来であると、ほぼ言い切れます。だから製造元や製造年代、型番をめちゃくちゃ気にするのです。

あとは Neve プリもマリンエアのトランスなのか St.ives なのか、的な話を聞くと思いますが、これもトランスの非線形、非対称性応答や周波数特性に由来するものです。ちなみに私は機材に全く興味がないので、この話は厳密には違うと反論がある有識者の方々はおられると思いますが、あくまで今回の話は再現性がある部分に絞って話をしているので、厳密な話をしたいわけではありません。そのようなご指摘がある場合はご連絡してください。追記記載させていただきます。

Saturate で数学的な非対称性の特性を作ってみます。

図8. Saturate で数学的な非対称性を再現している状況

この Saturate というプラグインは非対称を数学的に再現できるのです、勉強には便利。

√ ̄ 先程とは違ってこんな感じのカーブをプラグインが描いている。波形の形がこんな感じなりますよって表現だ。

パラメータに SYMMETRY というノブがあって、このノブで数学的な対称な値を非対称に変えることが出来る。

図9. 今までは上下の波形端が矩形していたけど、上が矩形、下が飽和しているような波形状況

図9 は 図8 の状態のプラグイン設定で出力された信号の波形を表しています。波形が非対称になっていることがわかるだろうか。この非対称性がアナログ歪みの数理物理的な根源の源だと思ってくれていいと思います。あくまで論理的な話でアナログはこうです、みたいな話でないことを再度言っておきます。

例えば 1176 をハードコンプしてボーカルやスネア、キック等を録音したことがある人はもしかしたら波形の非対称性に気づいた事がある人はいるだろう。

図10. 1176 で過激に歪ませた場合の波形表示

Dry の信号波形と比べてみて欲しい。

図11. これは 1176 をハードコンプする前

ハードコンプした信号がもし対称性があれば、上下の信号の終端が海苔波形のような表示にされるはずが、図10 の波形には上下の信号の終端に対称性が見られない。上下どちらか片側が矩形したような波形である場所のもう片方の波形は矩形していない。

この様にアナログ機材やアナログモデリング等で過激に歪みを演出しようとすると、非対称の特性もつアナログ機材の場合はその特徴が顕著に現れる。簡単に言うと 波形の プラス (+) 側と マイナス (−) 側で波形の非対称性が現れるということだ。

ちなみに 非対称 の高調波成分の分布は以下の様になる。


非対称歪みの倍音構成は奇数 + 偶数

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前半の簡単なまとめ


上記の話は Plugin の挙動を主に数学的な対称歪みと非対称歪みについて語りました。アナログ挙動はもっと複雑であるので、あくまで数学的な挙動であることを念押ししておきます。もっと数学的な 2 次倍音のみ発生とか 3 次のみ発生、とかは 対称 非対称 とは異なるようなので、知識が溜まったら話したいと思います。

波形変形で 2 次、3 次 など特定の倍音発生に影響するみたい。数学、波形合成やオシレーターの猛勉強が必要そうだ。

歪むとは「倍音が生成される」ということであり、基本的には音の Tone の周波数分布としては右肩上がりっぽく聞こえるので、明るい印象であったり、ものによってはちょっとスカスカな印象を与えるものもあるでしょうし、特性がどんどんホワイトノイズっぽくなってくる的な? そこまで極端な利用は無いと思いますが上手く使わないと駄目だぞってことで。

また、基本的に入力の比が大きい場合の話をしており、実際に適正レベルと適正出力でアナログ機材を利用したりプラグインを利用しても極端に歪みが音楽的な影響を及ぼすことはほとんどありません。ほとんどがノイズとか風味みたいなものです。いわゆるゲインステージングとかいうやつ? 適正に使ってたらそんな歪まないってことで、通して音が極端に変化するやつは非線形特性が強い機材だと思わないといけません。それがいいのか悪いのかの判断は、工学的な視点から言うと最悪で、使う人にとっては最高になる、この異なる視点の意見も大事であるということを覚えていてほしいです。

ただ、例えば、Brainworx の Console Series には「THD」のツマミがあり、これでモデリングの歪み率を変えることが出来ます。最大 -30 dB なので極端な変化ではないにしろ若干質感が変わります。また「V Gain」というツマミはコンソールのノイズシミュレートのことでノイズが複雑に信号と相互干渉し出音が変化し質感が変わります。これもゲインステージングってやつの一種か?

図15. TMT Technology って言うのもあるけど割愛

また、アナログ機材によっては周波数によって倍音構成が変化するものもある。

良くある、アナログ機材に音を通して「音が太くなった!」的な効果を実感する場合があるが、これは以下 図16、図17 の特性で説明がつく。

図16. 1kHz の特性
図17. 50Hz の特性

両方の図とも bx_console Focusrite SC のとあるチェーン特性である。1 kHz の信号には一切倍音が発生しないが、50 Hz の信号にはなかなかに歪みが発生している。低域や Sub に該当する信号の倍音が回路を通過するだけで付加されるが 中域、高域 の周波数の音には倍音は発生しなくなるため、低域と高域の周波数バランスが変化し重心が下がったり、あまり聞こえないし音程感のない低域の基音に影響され、スピーカーで再生できる音域、よく聞こえる音程と認識できる 120 Hz 以上の音が増え、相対的に低域の厚みが増し、音が太くなったように感じる。

上記の特性の場合、奇数倍音が発生しているが、偶数倍音も発生するアナログ機材であれば、もっと聞こえ方に変化もあるでしょう。

これが「アナログを通すと音が太くなる」という良く聞く効果の中身だ。

もちろん、深く造形的にアナログに理解がある人にとっては、これは間違いだとか、もっと奥深いものがあると言う人がいて、ちゃんと説明しろ、という方は説明を記載しますので、ご連絡ください。これはあくまで論理的に説明できる事柄を話しているだけです。

上記の様に「周波数によって歪みの量が異なると音の印象が変わる」ということが理解できると歪みを上手く利用し、意図した狙った帯域へのアプローチが可能になるのではないか、という思考に至れば非常にあなたは優秀だと思う。前半に説明してきたことは、あくまで知識で重要なのはその知識を元にどうやって自分なりの応用を聞かせられるか、です。


応用を少し考える


FabFilter – Saturn 2


Wavesfactory – Spectre

名称とか呼び方の話


歪みの話をするなかで、色々前提知識や言葉の意味を知らないとちょっと認識が各々で変化してしまうので、厳密なことではないが、我々が共通の話をしている、という前提を作りたいために簡単ではあるが名前の解説をしたいと思います。ここでの私の呼び方の概念でここを離れたら忘れて貰って結構です。

以下は「私個人の勝手な分け方」の説明です。これは証明できるものではない情報で正しい情報でもなんでもないので、もし「このように完全に定義できる」などのご意見をお持ちの方はご連絡ください。


Saturation / サチュレーション


知識が混同しないための確認事項


Distortion / ディストーション


Overdrive / オーバードライブ


Fuzz / ファズ


Aliasing noise / エイリアシングノイズ

正直、詳しくこの言葉を解説する気にはなりません。すみません。昔は Sweep 信号をいろんなデジタルプロセッサーに入れて遊んでいましたが、測定できるアプリが出てしまったり、オーバーサンプリングや ADAA の技術が発達したので、エイリアシングノイズがどうたらこうたら、最近は結構どうでも良くなりました。でも知ってると知らないでは結構違うと思うので必ず理解して欲しい言葉です。

エイリアシングノイズの詳しい情報は以下のサイト、もしくは以下の動画を参照ください。

https://pspunch.com/pd/article/sample_rate/

Dan Worrall さんが解説している。心地よい声だ…

この動画は高サンプルレートセッションに対するアンチテーゼ的な動画で、内部処理の高度な知識を有している場合、高サンプルレートよりも内部オーバーサンプリングや悪影響の少ない LPF を駆使したほうがいいんじゃね? 的な動画です。

実はデジタルで歪ませる場合にはこのエイリアシングノイズを気にしなくてはいけないのです。もちろん AD するときにすらノイズは発生するのだから、DAW 上でも気をつけようって話なんですが、基本的に歪みはうっすら利用していくものなので、可聴範囲にノイズが影響を及ぼすことはあまりないんだけど、DAW 上で極端に歪ませる演出をしたい、とか、特定の楽器の場合だと極端にエイリアスが問題になる場合がある、とか、Master セクションで歪みが足されるプラグインを利用した場合とかでは十分に気をつけたほうがいいです。

我々はエイリアスノイズの音を聞き分けできる必要性はあります。これはよく言われるデジタルノイズとは違う音を有します。エイリアスノイズは高域に多く現れ、時に低域のフォーカスと言うかブレみたいなものの要因になったり、曲に「濁り」みたいなものを発生させるので、聞き分けは結構難しいですが、オーバーサンプリングの機能が実装されているプラグインでは設定を切り替えて、ノイズが聞こえるか聞こえないかを確認する必要があります。あとは入力レベルと出力レベルを調節して A/B 視聴を頑張って行うとか、してみましょう。

この時点で内部的な Lowpass の必要性や、Tone 保持のための Tilt EQ の重要性や、すごく滑らかな Lowpass Filter の意味、例えばアナログ機材に謎の 3kHz Lowpass Filter がついている理由とか、その当たりの存在理由がわかってくる、はず。歪んだ分の調整のパラメータでしょう。あと僕はやらないけど Master に HPF を有効にする人とか、多分そういうトーン調整の意味があるんだと思ってる、多分…


Intermodulation Distortion (IMD) / 相互変調歪

これはプロのエンジニア界隈でもあまりポピュラーではない歪みでしょう。

相互変調歪みについてはどちらかというとアナログ機材の歪み特性のときに語られたり、デジタルマスタリングの際の高度な予備知識として語られたりするもので、まぁぶっちゃけ知っていたからと言って回避できる問題でもない場合が多い。ほぼ回避無理。ただ、できるだけデジタルの場合は回避する方法を模索する必要があるとは思います。回避できる場合は、ですが。

エイリアシングノイズの項目でも紹介した動画だが IMD についても語っている。5:33 あたりから

ちなみに AES だったかな「IMD の測定には 60Hz と 7kHz のサイン波を 4:1 の比で使いましょう」的なガイドラインがあった気がする。参考までに。

Intermodulation Distortion は正直ほとんど避けられない問題で、音としては割と不快に感じるレベルのモノだと解説されています。ただし、ほとんどどうやって聞き分ければいいかわからず、私の感覚ではノイズフロアレベルが上昇するように聞こえます。ちなみにデジタルだろうがアナログだろうがこの IMD は発生します。

IMD は特に高サンプルレートセッションデータを利用しているときに、24 kHz 以上の超音波周波数における変調ノイズが可聴範囲へ混入、影響するみたいなもので語られる場合もあり、安易な高サンプルレート利用は害悪も含むぞ、という説明に使われたりしますが、正直どんなアナログ機材でも発生しますから、我々は基本的にはダイナミクスレンジの壁に隠れているのかマスキングされているのかわかりませんが、IMD の音が絶えず発生している状況にいることは確かです。ただし通常のシステムではほとんど影響はないと思っていいはずです。

ちなみに英語 Wiki ではありますが、パワーコードの項目に面白いことが書いてあるので是非読んでみてください。IMD の影響を直に感じたい人はメタルを演奏しましょう(笑)

パワーコード (英語) wikipedia

通常、この IMD は敬遠されがちだし、雑音というかノイズの原因になるため、嫌われています。ただし、IMD において興味深い議論がされている情報が最近になって公開されました。これは証明されているものではなく「状況証拠的にこうじゃね?」って推測される事柄です。


相互変調歪が起こす不思議な作用を利用する

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実践的な歪みの役割


差別化


トーンマスキングへの配慮


アグレッシヴサウンドの追求


応用的思考

一番個人的には難しいマスタリングセクションのプラグインの話が、多少だができるようになる。個人的にはここへの理解のための今までの序盤、中盤解説でもある。

マスターセクションでの考え方


私はマスタリングエンジニアではないので、できるだけ理論構造の解説となりますが、現在のリミッターもしくはマキシマイザーと呼ばれる製品の中身は Limiting Stage、Clipping Stage、Ceiling、True Peak Circuit、こんな感じの作りが多いようです。あくまで簡易的な説明で、通常シグナルフローは非公開でブラックボックスです。もちろん中間に Saturation 回路が付く製品が最近では増えました。

Mastering Engineer じゃないのであくまで「構造的な視点からの使い方、考え方」だけを伝えることを再度念押しします。


iZotope Ozone 10 の場合

このプラグインは AI 任せでいいと思うが、自分がマニュアルで使うと…

図27. Ozone 10

ここには True Peak、Ceiling、Threshold、Character、Soft Clip、Transient Emphasis、Stereo Independence があり、主に ThresholdCharacterSoft Clip が歪みに対して設定できる値。Mode の選択肢はリミッターのアルゴリズムの選択なので、歪み影響を与えるが、IRC Ⅳ という最近のアルゴリズムを利用すればいいと思う。数字が若いのは古いリミッティングアルゴリズムらしいです。

Limiter (Maximizer) という言葉の補足

昨今のデジタル Limiter (や Maximazer) の中身は「Limiter + Clipper + Ceiling + α (True Peak) 」という構造になっていることが多く、単に Limiter (や Maximazer) というと単一のプラグインの中に複数の処理構造を持つエフェクターを指す言葉になることがある。ここで言う Limiting というのはレシオが無限大のコンプレッサーと同じ様な動作をするものであると認識して解説を読んでください。音圧が上がるモノ! みたいなものではありません。ダイナミクスステージのことを指しています。

Threshold はどれだけ Clipper にどれだけリダクションさせるかの調整。Clipper に当たった分波形は矩形するぞ。これは対称クリッピングだ。

シグナルルーティングとしてはおそらく、

   [Input]
    ↓
 [Soft Clip]
    ↓
[IRC Module]  →  Threshold
               ↓
               IRC Algorithm
              ↓
 [True Peak]  ← Clipper Stage
    ↓
   [Output]

だと思われる。結構適当に想像しているだけですから、これが正解なんだとか信じないでください。

できるだけ、出力をクリーンにしたい場合は Chracter を Slow にする必要性がある。これは考え方としては Compressor / Limiter のリリース値だと思えばいいが、あくまで考え方で、実際の挙動はそんなに単純ではないことに注意。

Fast にすると IRC が多分リダクションをしていないので、IRC バイパス → 直クリッパーみたいな挙動になる。Slow は Attack -0.01 ms、Release 500 ms、Ratio ∞:1 くらいの Dynamisc の設定になる、先読みで Dynamics を叩くようでダイナミクスがネガティブ方向に効く。ただ IRC のアルゴリズムで全然挙動が変わるので、あくまで参考程度に。物によっては Clipping Mix % みたいな挙動になるものもある。

⚠ ホントに IRC の選択で Limiter の挙動変わるからね!

Fast にするとハードクリッピングするので、限りなく歪む。Saturate の Shape 100% と同じ様な感じ。Slow にするに従ってアタックというか Transient への干渉が強くなり、Limiter から開放されるまで波形の原型を復元していく。つまりリミッターのリダクションが常にある感じのロングリリース挙動。(実際の挙動は単純な Limiter とは違うことを再度言っておく。)

その上で、波形を飽和させるために Soft Clip というパラメータがある。これは Saturate で言う Shape 0 % みたいな挙動になっていく。波形が飽和していき、つまり歪む。ついでに 4 x オーバーサンプリング後のに LPF が有効になる。

あれだ、smart:limit の Saturation 回路や bx_limiter True Peak の XL 回路みたいなもんだ。リミッター直前で RMS を稼ぎたい人向け。また同じ LUFS を目指す場合は直クリッパーなのか一旦 Saturation 経由なのかで Clipping の当たり方の調整ができる。波形が飽和するのでダイナミクスへの干渉が多少あり、もちろん IRC でも多少ダイナミクスへの干渉もあるだろう、そして追加で Transient Emphasis のパラメータがあるのは 「Transient の復元に利用しろよ?」って設計者からの言葉として解釈していいと思う。

Maximizer は複数のダイナミクスパラメータを総合的に曲に合わせる必要があるので、正直専業で Mastering してなきゃ、ホント使いこなすのは難しいと再確認です。ただ、実は Dynamics 系への深い理解 (Saturation) と歪み (Clipping) への深い理解があると、パラメータへの理解が多少早くなる、そんな風に思っていただければ。

たぶん、いままででの説明が多少なりとも頭に入っていると、iZotope Ozone って実は非常に難しいプラグインだけど、製品のパラメーターの概要自体はすんなり頭に入ってくると思う。

複合的な処理の結果、独特の量感が (音圧とは言わないでおく) 得られるプラグインのため、割と深い理解は難しいプラグインで、しっかりと使いこなすのは難しい。こんなこと書いちゃっていいのかな…自分でも書いててエンジニア殺しにも程があるでしょって思います。

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Character  で全体的な Dynamics への対応


Soft Clip の必要性


オプションとして

さらなる思考的なお話


自分の首を締める解説


この歪みに関する記事を書くのに非常に時間がかかりました。

もしかしたら、もう二度と解説系の記事を書くことがないかもしれません。これが最後になるかも、ただ Delay + α はやるかもしれない。Comp と EQ と Delay + Modulation が分かればミックスの解説は終わりみたいなもん。EQ と Comp は YouTube に動画あげて、歪みをやったので、もう基礎は完璧でしょう?

正直、こんなに丁寧に解説したらさらにエンジニアというか自分の仕事も減る気がしますし、同業者へ迷惑をかける気がします。また、これを公開するのがいいことなのか、正直悩みました。これを知られたくない相手というのは存在します。歪曲して解釈する人もいるだろうし、上手く伝わるか不安でしたし。

全ては考え方と音をどの様に聞かせたいか、でツールは本当にどうでもいいんです。傾向をつかめば多少動作が異なっても同じ様な音の傾向に寄せられるので、ツールが決定的な音源の評価には繋がりません。目的を持って利用することで、目的の音に到達することが重要で、道具は関係ありません。

もちろん、その処理の中で極限や妥協出来ないレベルを求める場合、ツールを吟味する必要性はありますが、それはアプローチ方法や処理の考え方とかそういう根本的なベースが組み上がってきたら行えばいいと思います。

主観的な問題と処理チェーンの優先度と、どうしても回避したいと考える数学的、物理的、工学的な問題、みたいな判断基準はぶち壊していかなくてはいけないのですが、まずは根源的な初歩的な挙動を抑え、理解が深まると、複合的な処理への理解が深まり、最終的に自分が到達したい音まで、おそらく遠回りせずに済みます。もちろん遠回りも重要な要素だとは思います。

ツールを使うことを考えることは非常に大事ですが、それよりも大事なことが理解できれば、最終的に DAW 付属でもある程度は大丈夫的な思考にはなります。もちろん Special Processing 的なことは出来ないかもしれませんが、根源的な原理や動作がすべての応用になるため「DAW 付属プラグインでも行ける」的な思考は大事です。実際にやるかどうか、の話は別ですが。

なんにしても、私はあくまで商業的なエンジニアとして活動しており、クライアントの希望や傾向に合わせる技術、素早く対応する簡素な処理チェーン、納期や期限に対応した柔軟なプロセスレベル、などなど、私が重要するのは瞬間の判断力で、実務的にはそれの速さが求められます。

なので、思考が結構偏っていることを踏まえ、あくまで数ある内の一つの意見として受け入れていただきたいともいます。よろしくお願いいたします。

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記事の内容は実際に実践的に使えるプラグインのプリセットや数値等を解説しているものではないことをここに記載しておきます。

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  • 書いた人: Naruki
    レコーディング、ミキシングエンジニア
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