オーディオインターフェイスを理解する【第一部】デジタル理論と実効値
今回は、まだ、”沼” にハマっていない方向けに、オーディオインターフェイスの選び方 というんでしょうか、ガチでメーカーと共同でインターフェイスを扱ってる私がぶっちゃける内容です。ある一定の領域に足を踏み込んだ方はこの内容を呼んでも意味ないと思います。この内容に否定的な人もいるでしょう。
さて、私はデジタルオーディオについてのコンサルティング業務もしています。コンピューターとデジタルデバイスの接続オプティマイズとかサポート業務、技術の説明やシステムの大きさと予算に見合ったセットアップの提案とかそういう類です。後はセミナーとかイベントなどでデジタルオーディオについて簡単な解説をしたりします。
実は “簡単な解説” = “間違った認識を相手に植え付ける” という自体にも発展します。実は簡単な説明というのはバックグラウンドに正確なデジタルオーディオ理論や仕組みを理解していないと、とんでもない勘違いをしてしまう場合があります。
理論値を再現することは不可能です。
実際には結構理論値と実行値は隔たりがあります。例えば、業務用 AD/DA も 32-bit か 24-bit 整数で量子化していますが、有効実行 bit 数は 20-bit ほどで、ダイナミックレンジが 120dB 付近の製品が大多数です。これはなぜかというと IC の誤差や熱雑音、ディザー等の理由で有効 bit 数が落ちます。AD/DA の場合 ダイナミックレンジの値がそのまま音質だと思っている人も多いかと思いますが 、AD/DA のダイナミックレンジ = 音質だと解釈するのはちょっと無理がある。
※ 32−bit の ADC や DAC の場合、24-bit 動作モードがあり、デバイス設計の段階で結局余分な 8−bit は “0” で埋められて、業務用 AD/DA でも動作 bit は 24−bit である。業務用 AD/DA で 32-bit int できる機器は未発売。例え動作していても 32−bit Int を記録できるアプリケーションがほぼ無いし最近でた Steinberg の奴しか知らないし、あれは業務用じゃないし……どうでもいいけど Steinberg と Steinberger ってたまに間違える。あれ?どっちがギターメーカーだっけ?
(ぶっちゃけスペックを気にしている人は、製品の “音” を気にしているわけではなく数値で製品を見ていることになる。もちろんスペックが必要な用途や場合もあるが、実際にスペック数値は最新製品と比べ劣っている、採用されている技術が最新製品より古い、にもかかわらず “出音” が素晴らしい機材はたくさんある。昔ながらのマルチビット ADC や DAC を愛用している人もいるし、音質っていう言葉が論争を生んでしまう。音の感じ方は人それぞれ。)
そもそも表現や表記、言葉の使い方を間違えている
例えばマーケティング用の資料を用意作成する人は技術者ではなく、おそらくデザイナーです。つまりデジタルオーディオの知識などありません。だから世の中に「なるほど、そういうことか」と思わせるまったく誤解を生む説明があります。その最たるモノを紹介します。
よくあるサンプリングの図です。縦軸を bit、横軸を Sample rate としているものです。実際にはサンプリングは “点” なので赤いギザギザは何を表しているのか原理を理解している人はちょっと混乱します。見慣れている人は音量とサンプルのデータはギザギザしていると感覚的に覚えてしまっています。サンプリングの理論的にはアナログ変換する場合は点と点の間はなめらかに表現を補完できます。消してアナログ信号はギザギザしません。※矩形波やノコギリ波はギザギザしているとか揚げ足は取らないでください。あれはカクカクしている波形でギザギザしてません (笑)
そしてこちらが前の画像とあわせて比較に出される、サンプリングレートを上げた、もしくはオーバーサンプリングの図。これに違和感を覚えない人はおそらく、10人中9人くらいはいるでしょう。確かに表現としては非常にわかりやすいと思います。
サンプリング周波数を上げるとさも Bit 精度まで向上するかのような表現です。これがそもそものサンプリング周波数を増やすと音質が劇的に良くなるという嘘です。確かに高域の再現力の向上には繋がると思いますが実際の可聴範囲で大きな違いは殆ど現れません。
また、Bit の解像度が上がれば音質があがる、と感じることはできますが劇的な変化は得られません。結局のところデジタル領域ではアナログの信号をいかにロスなく保存、もしくは補完できるか、なのです。結構勘違いされていますが、AD/DA の質というのは 音質ではなく再現度 だと思ってください。いくら最高の AD/DA を使っても、もともとのアナログ音質、デジタル音質が悪ければ、いい音は出ません。
デジタルの領域を気にしても駄目無駄。
インターフェイス各社、サンプルレートの話を盛って、高音質!とか、ダイナミックレンジの話をして製品の素晴らしさをアピールしたりしますが、ぶっちゃけると中に入っている AD/DA はみんなメーカーが一緒だったりグレードが違うだけです。だから殆ど同じ音がするはずなんです。ですが、そうではないのはアナログ回路設計が違うからです。
簡単に言うと インターフェイス の質はアナログ設計に鍵がある、と思ってください。高スペックデバイスが高音質か、といわれるとそうではありません。業務用 AD/DA はどちらかというと、如何に味付けがないか、だと思います。つまらない音なんですよ、それって高音質とは一般的には感じてもらえません。
要点は AD/DA のデジタル部はデバイスの音の差にはそこまで影響を与えない ということです。音質という言葉では人にはインターフェイスの良さは伝えられません。
いわゆる、一般向けの試聴機、ヘッドフォン、そして Hi-Fi、Pure Audio 用の高級 DAC 製品等はどうやって味付けしてやろうか、というものが大半です。それはそれで非常に面白いし、個人的に高級オーディオはマジで心地の良い音がします、音源自体が悪くてもいい音に変えてくれます。ですが、制作においては障害になりうる場合があります。だから制作向けのインターフェイスは「音の見やすさ」を比べるべきです。高音質だ、と感じることではありません。
実は、ADC と DAC の構造にアナログ領域 があります。このアナログ領域が非常に音質に影響を与えます。つまり ADC と DAC は構造上、音質を上げる余地 があります。これを次回、第2部 で説明していきたいと思います。