最強ダイナミックツール smart:comp 2 爆誕【プラグインレビュー】
さー、ノリノリで行きましょう。
さてはて、前置きは特に必要ないと思います。
早速レビュー行きましょう。
sonible とは
まず、sonible という会社を少しだけ説明しよう。
オーストリアに拠点を置く、機械学習を主に AI プラグイン製品を開発しているブランドです。いわゆるベンチャー企業であり、協賛や資金調達を有利に進め、現在、素晴らしいプラグインを開発しているメーカーです。製品の多くは機械学習系のプラグインで実行自体は「AI」と呼ばれるものを採用しています。
AI と聞くとすぐに「自動で最適解を導き出すもの」と思われがちですが、答えが決まっていない分野に於いて、AI の活用はまだまだ人の想像のはるか下を這いずっています。
ニューラルネットワーク系、ディープラーニングを活用したプラグインも最近は出てきましたが、これらはある程度答えが決まっている (ある一定の問題に対しての) 処理には非常に効果的に利用できるのですが、ことコンプレッサーには答えがないので、smart:comp 2 が「万能」である、という先入観は捨てて以下を読み進めていただきたいと思います。
AI プラグインを活用する方法については以下
smart:comp 2 とは
smart:comp 2 は前身の smart:comp の進化系のプラグインです。
残念ながら smart:comp については私はレビューしていないので、数多ある日本語のレビュー記事を探して欲しい。別に Ver2 が出たのでいまさら初代を振り返る必要は個人的にはあまりないので、ざっくり紹介すると、smart:comp というのは AI を活用した 次世代 の Compressor というものだった。
別にコンプレッサーとして味のある動作をするものではなく、至ってクリーンな設計でありパラメータも普通のコンプレッサーと遜色ない。ただしそれを補って有り余る素晴らしい動作をするのが smart:comp の魅力。
かゆいところに手が届くようなコンプレッサーであることは間違いない。なぜなら私の意見が取り入れられてたコンプレッサーだからだ。今回は Version 2 でコンプレッサーの優位性が期待できる機能を見ていこう。
全体的な説明は別のレビュー者を参照してください。ここでは私が利用する機能のみをしぼって解説します。通常のコンプ動作を今更説明されたってつまらないでしょう?
M/S コンプが実装されたこと。
個人的にはこれを待っていた。
なぜなら M/S Side-chain (Ducking) が高精度で可能なプラグインは FirComp2 しかなかったんだ。
この FirComp2 というプラグインは Pro Tools 使いにとっては非常に悩ましいプラグインで、AAX Version がなく、VST/AU オンリーだということ。ただし、個人的には最強の M/S コンプレッサーだったのだ!
このコンプレッサーも非常にいい。とくに M/S はパーセントで割合を調整できるのもいい。
smart:comp 2 は M/S を個別に調整できる。パーセントで調整できるのは FirComp2 の魅力であり、こちらの M/S は完全に M と S がスプリット処理だ。
正直コンプレッサーでダイナミクスを平にするとか、音量を多少平均化するとか、そんな処理、もう殆どしない。しないわけではないけど、大体録りで終わっているか、コンプじゃなくて別のツール使ったりする。
録りで調整できないものや、音源サンプル系はこのコンプに入れて Learn のボタンを押すと「こんな感じだけど、どう?」ってこのプラグインが提案してくるから、その提案を大体「ちげーよ、こうだろ?」って自分で調整するのだ。
そして、大体受け取る素材は Stereo だ。Stereo の素材を普通に Stereo Compression するとタダのゲイン調整に近い。タダのゲイン調整とは違うんだけど、面白さというか「ステレオ素材のここ押さえたい!」とか「真ん中の音そんないらないけど、外側の音は押さえたくない!」って時はとてもよくあるシチュエーションなのでガンガン M/S コンプ使う。
そして、ミックスで行う音量制御とかクリップゲインで調整すればいいし、オートメーション掛けばいい場合も多い。つまりミックスで行うダイナミクス調整はもう External side-chain しかほぼ出番ない。とにかく、常に制御し続けないとミックスがつまらないのだ。
そのための smart:comp 2 なのだ。
Spectral Ducking
この smart:comp 2 は「ext.sidechain」という左上のボタンを有効にすると、Spectral Ducking という現状最強の Trackspacer になる。Wavefactory が trackspacer ってプラグイン出しているんだけど、アレはちょっと個人的には合わなかった。
んで smart:comp ver1 のときからこの機能はあったんだけど、マジで違和感なく Ducking の調整ができるのだ。2,000 band を超える (多分 2048 bands) で入力スペクトラムに合わせて信号をコンプレッションしてくれるのだ。
動的処理の詳しい解説内容は以下の記事で
しかも、External SC も有効できてかつ、このスペクトラムに Internal の HP SCF と LP SCF が掛けられるのだ。普通のコンプは External と Internal 両方にサイドチェーンフィルターをかけるなんて事できないのだ。文句ない。
ちょっと最強すぎるんだ。このコンプレッサー。もちろん Ducking しているときじゃなくて、通常のコンプレッサーを利用するときもこの Spectral は利用できる。
もちろん、External SC も Internal SC も同時使用可能だ。しかも Spectral link 機能まであってかつ、Spectral Comp のパラメータがあるので、意味わからないほど微調整ができる。自分は使いこなせていない。
非常に有用である。もちろん、Internal の side-chain を有効にしながらこのスペクトラムサプレッションが利用できる。スキがなさすぎる。しかも Style、Spectral Comp、Color の 3 つのパラメータがあり、若干音のトーンやトランジェントへの干渉が可能である。
ひとつだけ欠点をあげるとしたら、解析後の Release Auto の機能。
これは完全に使いません。Release Auto くん。君だけは個人的にまったく役に立たないのでマニュアル操作します。できれば SKYE Dynamics みたいにパーセントで Release Auto の値を調整できたら最高だった。
SYKE Dynamics くんは KNEE が実装されたら僕はもっと彼を使うよ。
AI 解析は毎回使います。しかし、Attack time や Release time は後で調整し直します。
ただ、よくわからない素材に対してはそのままの数値や Auto を有効にしたままにします。
解析機能はお願い!おまかせ!って素材に適応していこう。あまり曲のリズムやグルーヴに干渉しない素材の場合は全然 OK だと思う。
Upward Compressor の実装
実はこれ、めっちゃ要望していた機能で、ついに Ver2 で実装された。
完全にダイナミクスを制御していきたい僕たちみたいな気持ち悪いエンジニアは、ちょっと特殊な Expander を利用したりマルチバンドコンプのゲイン調整を行ったり、Dynamic EQ の Above を利用したり、などなど、とにかく素材の Envelope へ干渉したいのだ。
んで、マイナスレシオ Expander、つまり Upward Compression は現在では欠かせないくらい重要な Dynamics ツールであり、それを実装してほしかったのだ!
Upward Compressor は Transient への干渉が強く、実は調整が難しい。そのため、うまく調整してあげないとちょっと大変な場合がある。しかし、このコンプ Spectral Comp 機能があるので、そのあたりを後段の機能で解消してきている。
なんていうスキのないコンプレッサーなんだ!
ちなみに Spectral の Style には Clear と Dirty という調整ノブがあるんだけど、Dirty にするほどもっと Transient に干渉できるので、ホント意味わからんほど Dynamics や Envelope へ干渉できてしまう恐ろしいツールなのである。
やばい。
Upward Compressor については Sculpt っていう魔法のプラグインがあるんだけど、そっちについてちょっとだけ触れているので以下の動画も合わせて見ておくと良いかもしれない。
この Upward のパラメータは普通に Expander の動作もするので、リリースの調整も実はもっと積極的に Envelope へ干渉できてしまう。本当に「至れり尽くせり」なダイナミクスツールなのです!
とくにリリースへの干渉は現状のプラグインでは結構難しいのだ。なので非常に有用である。Transient への干渉は Transient Shaper がたくさん選択肢があるので、自分は今は Release への対応がトレンドである。
バージョンアップで隙がなくなる
Auto Release 機能だけはオススメできないがそれ以外の機能は本当に完璧だ。
Attack time を 0 ms に積極的に調整できるのもポイントが高い。通常は潰れて歪ガチだった Version 1 にくらべてもっとクリアになった。おそらく Spectral 機能や先読みのおかげだと思われる。
こまかいところだが、アルゴリズムも増えて、テンプレート機能もついた。
かなりいろいろな素材への応用が可能になった。Universal で大体解決しちゃうけど、素材に合わせてた設定があるのは非常にありがたい。また、カーブテンプレートがあるのもいい。わりと使うのが「Parallel Comp」と「Noise Gate」だ。どちらも Release への干渉が容易になる。
また、謎の Input Riding 機能。これちょっと調整の仕方がまだ掴めていないが、Auto Leveler みたいな機能だと思っていい。Speed Intensity を調整していくみたいだけど、50/50 で良いと思う。地味に凄い機能だと思うが、まだ有効性がわからない。
もちろん、コンプに入る前のゲイン調整をちゃんとしていないと行けないのは基本だが、どちらかというと詰まった音が好きな自分にとってこのあたりの機能を有効活用できるか、はまた別問題。
他には Version 1 のときの Open GL の激重感がまったくなくなり、かなりスイスイ軽快に動くようになった。
もちろん Soft limiter の機能もそのまま受け継がれいる。
地味にこの Soft Limiter がよいのだ。Auto Leveler の機能が若干改悪なので、元の感じに戻してほしいのだが、おそらく Auto Leveler の値も 可変 なので、微調整ができないのだろう。
最後に
このメーカーが Saturator をガチで作ったら面白そうだよねぇ〜(小声)
sonible には smart:EQ3 というプラグインもある。こちらも超高機能な EQ でぶっちゃけ使い所が Bus チャンネルくらいしかない、結構じゃじゃ馬 EQ なんだけど、それと合わせて使っていくのがいいのではないかなって思います。
sonible のツールは本当にミックスを時短してくれる良いモノばかりでオススメですよ。
是非買って使って見てください。