SteadyClock FS の胡散臭い話に物申す。
以前から RME の SteadyClock FS に関する、どうも意図に反する考え方が蔓延しているので、RME の SteadyClock FS に対する個人的な見解を述べたいと思います。
通説
SteadyClock FS は外部クロックを入力しても意味がない。
個人的見解
んなわけあるか。
クロックの考え方
少々、オーディオクロックの基本的な利用理由を履き違えている人たちが多すぎる気がします。
オーディオクロックの基本的な利用用途はデジタルデータをサンプル単位で利用するために必要な時間制御であって、基本的な構造概念としては音質向上のためではない。ただし、クロックの精度が良ければ音質向上にも繋がる、というような関係性が現実として見られることが多い。しかし、これはあくまで、一昔前の基本の延長の副産物だ。現代の製品では精度において雲泥の差があるような製品は少なくなっている。
確かに 20年以上前に Aardsync が世に出てデジタルレコーディングの黎明期にクロックの重要性をジッターの制御、という目線より、音質、に置き換えてしまった名機が存在するので、履き違えることに対して文句も言う筋合いはないかもしれない。
もちろん、RME 以外で DAC 用のクロックを製造しているメーカーはたくさんあり、それぞれのメーカーで考え方の違いがあるが、ここでは RME の考えを製品から読み解く必要がある。
しかし、SteadyClock FS に外部クロックを入力する意味がない、という発言は少々気に食わない、意味がないわけがない。
SteadyClock FS の開発経緯
RME の本家サイトを読めばわかるけど、元々ジッターの多い MADI のデータ信号から安定したクリーンなデータを取得する用途で SteadyClock の開発が始まっている。
つまり、外部からやってくるジッターの多い信号をこちらで訂正してあげるよ〜っていう機能。なんとも素晴らしい。(そもそもジッターの多いデータを出力させない、って考える高度な方々は以下の内容は蛇足です。)
現在は 1000 兆分の 1 秒単位の精密なジッター抑制を行うらしい。多分ルビジウムなどのクロックより精度がいい。だからクロックを精度で推し量る層の人は外部クロックなんて使わないで SteadyClock FS 使うべき。
SteadyClock FS
In digital audio, the clock frequency is an essential factor, as it creates the correlation between the audio bits and the time reference. Unfortunately, the clock frequency is not always as stable as desired. Small fluctuations of the clock frequency are referred to as “jitter”, measured in nanoseconds (ns).
だから、外部クロックが意味がないわけじゃない。外部からやってくる信号を自身で訂正しているのだ。外部のポテンシャルが生きるはずだ。そもそも デジタルソースの同期とは、音質の変化を期待するものじゃない。ここではデジタル転送で劣化しにくいと捉える。(受け側が勝手に訂正していることに違和感を覚える人はこの話は蛇足です。)
高度な補足: デジタルソースでの同期とクロックソースの同期は似て非なる挙動を得られる場合があるので、厳密には分けて考える必要がある。
ただし、世の中には独自のクロックソースを生成しているクロックがあり、それらのソースからしたら「味」が薄れるのは当然かも知れない。もちろんクロックは精度以外にも色々な要因があることは、ある程度の経験を持つと理解できるが、そんなことは今は抜きにして理論的に行く。
また、SteadyClock FS を持たない外部機器に外部クロックを入力させ、そしてその機器とのデジタル同期を確保するために SteadyClock FS に同じ外部クロックソースを入力させる、というデジタル同期の観点からみても外部クロックを入力させる意味はある。というかこの利用方法はかなり利点が大きい可能性がある。
それ以上は正直、世界で数十人しかいない究極のクロック理解者たちの領域である。素人にはよくわかりません。素直に理論的に SteadyClock FS は技術の面でどんなクロックよりも正確である。それは事実だ。
外部クロックの用途
まず、外部クロックの利用用途の前提が間違っているので、クロックの利用方法の基本を理解できない。
外部クロックの基本的な利用用途とは、複数のデジタル機器の同期 であって、音質に関するものは、好みの問題で、機器本来の用途とはベクトルが異なる。あくまで外部クロックはクロックソースのマスター用途に使うの一般的でその選定理由として音の好み、等が挙げられる。クロックマスターを変えて音の変化を楽しむ、なんていう高度な利用はマジで RME 製品を購入するであろう一般人は考えなくていいです。
また、外部クロックをデバイスに入力しても外部クロックの基準に従うだけで、基本的には内部クロックの性能に準ずる。つまり、外部クロックで音がめちゃくちゃ変化するような機材は元々のクロック性能がお世辞にも褒められたものではない、と捉えても別にいいと思う。
変化が少ないクロックほど元々の質が良い、つまり、いい音が出ている、と考える。この理論で行くと SteadyClock FS は最高だ。
ここで少々問いたい事実がある。
あなたは外部クロックの音が好きなの?
RME 製品を利用するということは RME の音が好きなんじゃないの?
外部クロックを入れても SteadyClock FS 自体の精度が素晴らしいので、外部クロックにも影響されにくい (というか外部クロックより精度がいい内部処理してくれてるんでしょう) 素晴らしい内部クロックだと、気付ける人がオーディオを理解していると個人的に思います。
現在 SteadyClock FS が利用できるデバイス、BNC 経由で外部クロック入力できないよ?
SteadyClock はおそらくほぼすべての機器に搭載されている機能であるが、最新の FS 対応機はまだ 2 機種のみ。そして、そもそも外部クロックを同期するためのスタンダート接続である BNC 経由で同期不可。この時点である程度想像できないと。
この 2 機種、ADAT や S/PDIF (TOSLINK)、AES 経由でクロック信号を入力させることは出来ると思うけど、これらは精度の低いデバイスからデジタルデータを入力させることが主だと思うから、外部デジタル信号を SteadyClock FS 基準で訂正してくれるなんて最高の機能じゃないですか?
もちろん、SteadyClock FS の影響を受けたくない、なんていう、クロックにこだわったプロユーザーからオーディオファン層であれば気にする必要性はあるけど、その利用方法って2台以上のインターフェイスでかつ、RME 製品より高級である機材を利用していると思うし、アナログ機器を使う人、もっぱらマスタリングやリサンプルユーザー向けで、一般人のユーザーには全く関係のないことです。
RME デバイスからデジタルを出力するなら SteadyClock FS 自体がマスターの役割を担うので外部クロックの必要性すらないって考えられませんか?
なぜ、利点を欠点と捉えるのか?
確かにオーディオクロック資産をお持ちの方からしたら、せっかくのクロック資産があまり影響されない、という事実はあるのですが、影響されないのではなく、内部でもっと精度を制御していると考えてください。
つまり、RME の提案とは外部クロックの訂正を SteadyClock FS がすることなのです。現状 SteadyClock FS が利用できる状況は外部クロックが必要ない想定基準であり、本当に必要なら2つのデジタルデバイスを1つのマスターで同期するか、SteadyClock FS がマスターになること、で想定される利用状況では完全に SteadyClock FS の利点が発揮する。
オーディオクロックにこだわっている層は RME だけ DAC を保有している、なんてことは正直考えられませんので、まず、外部クロック前提で RME の SteadyClock FS を語ることはナンセンスなのです。
ですから、資産を持っていない層が RME 製品を 1 つ買うだけで素晴らしいクロックと DAC 性能を手に入れることが出来る、という事実を評価すべきです。
これはクロックを重視する人向けのお話ではありません。
今まで話をしてきたことは、あくまで SteadyClock FS を利点と考えるための、誘導的なお話であります。あなたの考え方次第で、利用する機材は最高の一品にもなりますし、最悪の一品にもなります。
あくまで、導入的なお話であり、既にオーディオに深い独自の理解を構築している方にとっては、「こいつは何もわかっちゃいない」という内容だと思います。
SteadyClock FS に外部クロックを入力しても意味がない、という「嘘」を知ってほしい、単なるコラムです。
それでは、また。