保存の仕方で音声は変わるのか?
SSD や HDD で音が変わるというエンジニアは多いです。正直、笑ってしまう人もいるかも知れませんが、当たり前ですが、保存方法で音質は変化します。
当たり前というのはちょっとそんなこと聞いたことない知らない人にとっては、なんか嫌な言い方に聞こえるかもしれませんが、このサイトの記事を読んでいる人であれば、大体なぜ、音が変わるのか、予想は簡単にできると思います。
通説
かれこれ、7、8年前 (2011 年くらい) でしょうか、当時はまだ、HDD が全盛期でしたが、ある有名なマスタリングエンジニアさんにお話を聞く機会がありまして、そこで、
なんていう話を聞いたときには戦慄しましたが、正直そこまで変化はないだろう…とタカをくくっていました。
現在は SSD 全盛期、SSD が普及し始めた頃、エンジニアさん達はこぞって、
と口を揃えていっていました。確かにスピーカーの反応が速い、といういかにもエンジニアさんらしい、わかりにくい表現ではありますが、音色が違うのは自分も認識していました。
保存媒体が違えば原理はどうあれ、音は変わるのだ、という認識はプロエンジニア界隈では非常に常識的な認識のお話です。
⚠ ただし、この件に関しては古い話でもあることに注意が必要です。
実験内容
前回、Thunderbolt と USB 接続で音が変わるのか で説明した通り、通信規格で音が変化することは証明済みです。つまり、保存の仕方が違うストレージでは音に違いが出ることは、容易に想像できます。念の為言っておきますが、これはリアルタイムのデータの保守性の話で、どちらが通信規格として信頼できるか、という尺度の話です。
今回、音の差を明確に出すために、iMac の内蔵 SSD から音声を再生して内蔵 SSD にデータを録音、保存、逆に比較用のデータは外部ストレージから音声を再生し、外部ストレージへ録音データを保存、ということを行いました。
いつもどおり、愛機 AMÁRI ちゃんにお手伝いを頂きました。
データ信号の流れとしては、
外部ストレージ → 再生ソフト → DAC → ADC → DAW → 外部ストレージ
外部ストレージは USB 3.0 規格で接続しました。
USB のバスパワーの影響がなんとか、っていう意見もあるようですが、この実験でバスパワー駆動のものは一つもありません。また、同条件下では AD/DA のアナログ部分やケーブルが極端に影響を及ぼすことはありません。それは Thunderbolt と USB 接続で音が変わるのか で証明済かと思います。
視覚的結果
衝撃的な結果です。一目瞭然。
何も言うことはありません。波形でこれだけ差があります。一瞬で両者の違いを耳でも知覚できます。
バイナリチェックする必要もないくらい違います。そもそも Null チェックでかなりの差異を検出できるので音は違うしデータも異なります。Pro Tools の波形表示を毎日見ている人ならこの同期レベルでのこの誤差は明らかにおかしいと思える部類だと思いますが、他の DAW をお使いの方は申し訳ないです。あまりピンと来なかったらすみません。また波形表示が古い Version のため新しい情報は以下を読み進めてほしいです。
比較用に音声をアップロードして皆さんに聞かせたいのですが、リファレンス音源には原盤権があるのでおいそれと載せられません。もし非常に上から下までまんべんなく音が存在するロイヤリティーフリーの音源ありましたらご提供ください。
個人的な見解ですが、USB 接続の外部ストレージの 波形は荒く、SSD の 波形は細かい 印象を受けます。
聴覚的な感想
SSD で保存した音声はどちらかと言うと迫力は薄く、外部ストレージに比べ、低域の量感が違う。SSD の音声はクリアだが、外部ストレージの音声は歪みが多い印象を受けた。
低域の再生している周波数帯域が絶対に変化しており、低域の重心が外部ストレージの場合、上がっているように感じた。SSD は落ち着いて低域の再生をしているように感じた。
低域の量感の違いは、低域の再生周波数が若干上の帯域に移動したから、だと感じる。それを証明するために、両方ともスペクトラムを見てみた。
スペクトラムの解説
まず、赤い線が内蔵 SSD の周波数特性、青い線が外部ストレージの周波数特性。
SSD のほうが、極低域、30Hz 〜 80Hz は量感があるのに対して、USB 接続の外部ストレージは 100Hz 〜 200Hz つまり、スピーカーが余裕を持って再生できる低域の量感が多い、だから迫力があるように聞こえた。
スペクトラムを見てもこれだけ音の違いが見て取れる。聞いてみるとものすごい変化していることがわかる。
どちらがいいかと言われたら、パッと聞ぎは、外付けストレージのほうがいい音だと感じる方が多いかもしれません。ただし、SSD のほうがクリアでストレートな音がします。
正直好みの問題だとは思いますが、USB という規格を通過するだけで、歪みの量が増える、低域の特性に変化がでる 可能性があることが、前回の実験 から更に証明されました。
なぜ音がかわるのか
まず、データと転送の基礎知識が必要でかつ、自分の常識が間違っているという部分を認めなくてはいけないです。
こういう実験は前提知識の有無で「AD/DA が変化の原因だ」という論法をよく目にしますが、そういう方はご自身で実験してみてください。自分の環境でデータを再生し DA to AD のループ録音を何度も行ってみてください。
この時よくある失敗が適切な時間軸同期が確保できるか、と適切な Line Out と Line In を利用できずにデジタルインターフェイス内部のアナログ回路の特性が付加されてしまうことで、これは簡単に回避できますが、安価なインターフェイスの場合、不可能な場合があります。今回のデバイスはマスタリング用途向けのものであり、そもそも許容できる誤差を見誤らないことと、適切な実験には適切な事前知識が必要なことを絶対に忘れないでください。
または D/D 転送を行うことが可能なデバイスで DD ループを作って録音を行ってみてください。
おそらくほぼ差異を (この実験並みに) 観測できません。
追加実験、DD 転送の場合
追記: 2024/06/20
DD 転送は人によって定義はことなるかもしれませんが、私が現在可能な状況下で行った結果を載せます。
Pro Tools 上で再生した音を AES/EBU Out に出力、それを AES/EBU In で再度 Pro Tools に戻した結果をご覧ください。
DD でも変化が多いと思う方向けの DD 1 回目と 2 回目の波形を重ねてみる。若干違いを Pro Tools のは形状では観測できるが、Pro Tools を全面信頼するより Null チェックもする。チェックでは ‐325 dB RMS 以下の差異しか発見できないため、ほぼ同一データと言っても差し支えない。
そもそも Pro Tools の波形表示は同一データでも超拡大してみるとズレなのか波形表示計算バグなのかわからないが、微妙に2重に見えたり1サンプルの違いが見える場合があるので Null チェックも同時に行う方が良い。ただし、明らかに違う波形はちゃんと表示が異なって見えるのである程度の波形表示の違いは信頼できる。
こちらも Null チェックしたが同じように -325 dB RMS 以下で、そもそもどうやったってサンプリングの完全同期が不可能であるのに、データはそもそも 24-bit Integer 上では完全打消を達成している。つまり同一データとみなせる。つまり時間軸の同一性の担保はこの実験から得られる。
Thunderbolt SSD (または USB SSD) → Pro Tools → AES/EBU Out →AES/EBU In → Pro Tools → Thunderbolt SSD (または USB SSD) の信号の流れです。これはストレージ以外は同条件でしょう。
Pro Tools を含む、この DD 転送のシステムの場合、ほとんど差異を検出できず、Null チェックでも人間には知覚不可能な差異、そもそもほぼ同一データと判断できるだけの情報が得られたので、DD 転送の場合はかなりデータを信用してもよさそうな状況になった。バイナリチェックしたらおそらくほとんど違いを見つけられないはず。
そもそも Null のデータを +360 dB したけど明らかにデータとしては量子誤差のようなゴミが発見できただけである。
ただ、前回の同じように 再生ソフト経由 でもないですし USB 経由の HDD ではなく、SSD 経由で Thunderbolt と USB 3.1 Gen2 経由なので同一条件ではないことにも注意だし、そもそも DAW 再生の場合はメモリ上のデータを読み出すため、ストレージ関係ないじゃん…
以下の画像はメモリに音声データを読み込ませず、外部 SSD を USB 経由でリアルタイムに音声を再生させた場合の DD 録音データと最初の DD 一回目の差異。
そりゃそうだよねっていうレベルで音違います。最初の実験の結果よりは、違いを視覚的にはチェックすることが難しい。画像を拡大して見ないと気づかないレベル。厳密な同タイミングが確保できないのであくまで一例として捉えてほしいですが、今回のテストでは同一時間上とみなせるだけの情報は開示したと思います。
今回は DD 転送でのチェックのため、通常の誤差であれば、このように以下の画像のようなスペクトラム特性にはなりにくい。なぜなら打ち消し合いのレベルが過度に変化しており、この誤差は 1 sample 未満のときに発生するような Null チェック波形である。Null チェックはどのような波形が出力されるか、で状況を推測できなければ本当に意味がない。
Null チェックでこれだけ差異があるんだ、バイナリ確認しないと云々っていう話以前の問題です。
再度いいますが Null チェックはかなりの知識が必要です、ですから安易にチェックできる方法ではないことを知っておこう。厳密な時間同期ができていなくてもできる限りの同タイミング調整をして Null チェックをすれば Total -60 dB RMS 以下を観測でき、-60 dB 以下の差異は人間はほとんど知覚できないレベルになります。
まぁ、あたり前に DD 転送だろうが、どうしても外部入出力をリアルタイムで行うような状況だとこの差異は観測できます。ただし、これはあなたの環境とは違う実験であることに注意。自分でできる限り確かめてみるのもいいですが、おそらく通常利用で観測できる差異は既に確認はできないレベルまで来ている。
実験は前提条件が難しいのでちゃんとチェック
確かに安価なオーディオインターフェイス使っていたり、クロックの時間精度の問題やサンプリングの開始タイミングで違いを認識できる場合がありますが、今回利用しているデバイスはクロックの精度は許容できるレベルの代物ですし、外部クロック入力までさせている環境で行っていますし、そもそも DD 転送時の同一性を実験から導き出している状況ですし、室温環境が劇的に変化した状況でもなく、特に DA to AD を繰り返し行ってパターンをいくつか用意しても、このように視覚的にも音響的にも 違いを歴然と把握 できる場合はほぼありません。
⚠ この実験は正確な時間同期を行えない場合は意味をなしません。しかし、厳密には同時サンプリングは不可能です。DA to AD の実験を行うときは時間軸の整合性をとならなければいけないのですが、同一サンプル上の同じタイミングは物理的に無理なので、同じ再生タイミングで録音制御ができる DAW を利用することをおすすめします。もちろん、ストレージから直接読み出しの設定をしないとメモリ上のデータのやり取りになるのでストレージ関係ない処理になる場合があります。
保存データは変化しない
そもそも我々はデータは変化や劣化しないという常識があります。
これは「ストレージに保存されているデータは変化しない」という常識です。
ただし、実は「データのコピーまたは転送中」は全く同じデータを転送することが物理的に不可能な場合があります。
USB ケーブルがちゃんとシールドされていたり、フェライトコアがついている理由を考えよう。または CD の表面に傷がついている場合を想定しよう。CD の中身のデータは変わってないはずですが、読み出しで変化する可能性がある例でしょう。
コピーしたデータは変化する
これも常識や自分の経験から絶対に納得できない意見だと思いますが、これは「半分 正しく」て「半分 間違った」言葉となります。
これは 誤り訂正 に関する知識がある人は特に変哲もない意見だと思いますが、自分の常識的にデータが変化することはありえない、と思っている人はこの事実を受け入れ拒否を起こします。これは仕方ありません。
まず、USB の通信方法の基礎知識が必要で、これは以下のページでめっちゃ雑に解説されているので、まず見ておいてください。
USB のオーディオストリーミングはドライバによって転送方式がおそらくまちまちですから、もしかすると利用するドライバーでかなり変化する可能性もこの説明から読み取ることはできます。そもそもの DAC や ADC の構造を細かく理解していないと納得しがたい状況が現れることもあるでしょう。
これは難しい話ですが、USB のプロトコルアナライズ (監視) を行えるものを用意するとデータがクリーンではないことはよくある事実です。これは私が観測したとかそういう話ではなく、以下の記事で語っている USB のプロトコルアナライズの専門家の意見を拝借しております。
でも、データコピーしても音やデータは変化しないと思うと思います。それはデータのエラー訂正が行われるからです。エラー訂正というのはデータの基礎中の基礎であり、どういうものかを理解するのはここでは専門家ではないため、厳密に説明できませんが、超ざっくりと「A という元データと B というコピーデータを比較して、同じものだよね」てチェックするのがエラー訂正だと思ってください。
この事実を知っているとデータ転送上ではデータが変化している可能性があるが、コピー保存したデータは訂正されるため、データ (音) に変化は起きない、という 2 つの側面を持つという知識が得られます。
これは正しい意見か知りませんが、自分が教わった話としては、物理的なデータ転送の場合 0 と 1 がときに 0.4 とか 0.6 とかいう情報になることがあるらしくて、それを 0 と処理するか 1 と処理するかで変化が起きる的な話を聞いたことがあります。これは多分わかりやすい例え話で事実とは乖離するとは思いますが…
オーディオストリーミングはエラー訂正はできない
オーディオストリーミングに於いて、データの通信はリアルタイム相互信号処理のため、エラー訂正を行うような時間的制約を確保することは不可能なため、転送されるデータに変化が伴うことは事実であり、今回の結果は保存媒体というより、コンピュータの読み出しの問題を極端に発生させるための条件で行いました。ですから視覚的にも聴覚的にも変化が出ます。
ここまでの例は極端な例を出したに過ぎず、実際にはその違いは各 DAW の環境や自身のシステムの環境でも異なることを知っておいてください。
そもそも「USB ケーブルで音が変わる!」って言っている人の意見は賛同するのに、何故「データの保存方法で音が変わる」を否定するのでしょうか。USB ケーブルはデジタルデータしか転送していないのに、音が変化するということは転送データが変化していると同義でしょう?
つまり信頼性は非常に高いとは思いますが HDD の磁気ディスクの読み出しが絶対的に正確なのか、SATA 接続の通信データの信頼性は高いのか、など記録媒体の構造から接続方式の影響を受ける可能性がある、という部分は非常に当たり前に孕んできます。通常は誤り訂正があるので問題ではありません。
しかし、それが実行されない場合は常にリアルタイム再生では影響を及ぼす可能性があります。これは相互通信の問題や CPU の処理問題であったり、記録媒体の物理特性に由来する可能性があるもので、その知識があれば「まぁ、変わる可能性はあるな」とは理解できると思います。ただし、現代では回避できるだけの機能が備わっています。
これらの話は以下のページでも少し突っ込んで話をしています。
これは転送データと DA の関連性を暗に肯定するような意見だと思ったりしますので、カウンターオピニオンをお持ちでかつ理論的に納得できる客観的な情報をお持ちの方は是非ご提供ください。
データ転送をだたの読み出しやメモリ上に保存することと考えるか、リアルタイム通信と考えるか、で大きく認識が異なる事例になります。
もちろん、これだけが原因だとは完全には言えませんが、音の変化というものは残念ならが起きてしまします。これは DA to AD の問題ではなく、そもそも、保存されている媒体の保存方式、読み出し方式、データ転送の方式で実際のデータとは異なる値を出力しており、それが修正されないまま DAC に出力されたことが原因だと推察できます。
この話は CPU のリアルタイムレンダリングとレンダリング処理とほとんど似たような現象ですので、こちらの記事を読んでおくともっと理解が深まる可能性はあります。
総括
できれば、ご自身の環境で検証したほうがいいと思います。SSD や HDD、外付け、通信規格、それぞれで各々変化します。あくまでこれは一例です。
正直ここまで変化が顕著に現れてしまうと、ご自分の耳で判断するべき ですね。もう一度言いますが、今回の検証は 違いを明確に出すため にあえて、外部ストレージを使いました。またメモリ上からの読み出しを回避しています。
一度 RAM 上にデータを読み出しして RAM 上に保存してからストレージにデータをコピーするのが最近の DAW なので、キャッシュの設定が極端でなく、セッションも大型でなければ、保存媒体関係ないです。一緒です。
ですから、あなたの制作環境でこのような同じ差異を作り出すことは難しい状況ですから、保存媒体で音が変わるのは確かに考えうることですが、それは一昔前のシステムの話で最新の DAW 環境ならそれを回避するための Disk Cache 機能が備わっていると思ってください。小規模なセッションだったら気にしなくていいと思います。
ただし、ここで話をした以外の保存媒体のオカルト部分が存在する場合、そうではありません。しかし、それは私は説明できないので説明できる人に聞いて下さい。
そんなことまで気を配るのはナンセンスだと思う方は何も考えずに内蔵ストレージに保存するのが吉かもしれません。もしもの事を考えて USB 経由で外部ストレージへ録音するのはちょっと避ける考えもありかもしれません。これらの結果から、USB 経由での音声信号のやり取りをし、保存先のストレージの形式が違う場合は、音に影響を及ぼす ことが示唆されます。ただ、最近は回避されている場合があるので気になる方はチェックしてみてね、程度です。口でいうのは簡単ですが、厳密に検証するのはもっと難しいのです。ただ、誰もエビデンスを出さない意見に正直、価値は無いと思っています。
個人的には、色々考えて悩むよりも、新しい通信規格を積極的に使っていくことが望ましいと思います。