エンジニアの視点から解説するコンプ攻略法【有料含む】
僕たちはコンプレッサーというエフェクターをよく多用します。
その理由はなんですか?
以前、そんなことを聞いたことがありますが、音圧を稼ぐためとかアタックを抑えるためとか、音量のばらつきを無くすとか、色々皆さん教えてくれましたが、イマイチ納得できないので、自分で解説することにしました。
動作原理
本当はコンプレッサーの仕組みを回路図で説明すると、「なるほど、そういう原理なのか」と納得できる (と思う) のですが、もはやそれをここで説明するよりかは、先人たちが回路図を公開しているのでそちらを参考にするのがいいでしょう。
僕たちは結局 FET とか Optical だとか VCA だとかの話になるので、正直どうでもよくなる話です。結局は慣れです。別に僕、コンプの種類で使い分けとかしたことないので…
歴史は知っておくと便利
以前の記事でも話したのですが、機材の歴史を知ることは大いに役立ちます。
コンプレッサーの場合、Overmodulation 防ぐために制作されたのが始まりです。
以下の動画で解説されています。
過去の記事でもエフェクトの歴史は大事だよ、って説明しているのでよければそちらも参照ください。
Overmodulation については深く知る必要はありません。一定のレベルを超えると問題を起こす可能性があったため、信号を一定以下に保つ必要があった、とだけ知っていればいいでしょう。
コンプレッサーのパラメータ
今更ここでパラメータの説明はしません。こんな記事を読んでいるのです。知ってる把握してるでしょう?
初心者にとってコンプレッサーのパラメータの動きっていうのは直感的に理解できないので、非常に扱いが難しいエフェクトだとは思います。
詳しく知りたい方は以下の動画を参考にするといいんじゃないでしょうか? 和田さん精力的に活動しておられるので役立つと思いますよ。
コンプレッサーの利用は技術者の想定を超えていく
確かに、コンプレッサーの最初の利用用途は レベルオーバーを防ぐためのリミッター的な役割 として登場しています。
最初は本当にラジオ放送のための信号管理に利用されていました。
しかし、エンジニア達はこのエフェクターを利用して数々の応用的な利用方法を見出します。
ハードコンプレッション
先程の動画の後編にも登場するのですが、パンチや派手さを演出するためにハードコンプレッションが流行りました。
当時のグラミー賞エンジニアは「ツマミのパラメータがどういうものかは理解していない、最大まで弄ったら最高にクールな音になったから採用したんだ」って感じの発言しています。
なんか、アウトバーンでせいぜい 150 km/h くらい出して走行していたところに、300 km/h で突っ込んできた、って感じの内容です。あえてアクセル全開をしていなかった業界にアクセル全開で乱入してきた楽曲が評価された、的なノリでしょうか。
パンチサウンド
もちろん、ハードコンプレッションの中には、余韻を圧縮してパンチなサウンドをクリエイトする人たちも現れます。
シンセサイザーのパーカッションサウンドに過度なコンプレッションを掛けてパンチサウンド、特にキックやベースサウンドにアタック音とサブベース音を絶妙に組み合わせた楽曲が登場します。
この頃からキックのアタックを押した楽曲やコンプレッサーの戻りサウンドによる独特の揺らぎによるリズム付けなど、エレクトロミュージックの制作にはかなり密接な機材となってきます。
音圧を稼ぐために利用する
この利用方法に至っては個人的には懐疑的です。確かに音圧を稼ぐことが出来るかもしれませんが。僕はダイナミクスを感じる大きな音が好きです。コンプレッサーは音を圧縮するエフェクターなので、若干異なる視点を内包していることを後半に述べます。
普通に音量を揃えるために使うよ
こう、答える人が多いと思います。確かに量感を揃えたい場合に使う人が多いようです。
1つ聞いていいですか? コンプレッサーで量感揃います?
本当に音量って揃うの?
確かに揃えるための設定はありますが、かなり手間がかかると思います。つまりオートメーションでボリューム書いたほうが早いから音量をコンプで揃えるって事はほぼ無理。
多少のダイナミクスの抑制には利用できるんだけど、音量を揃えるっていう考えで使うとネクストレベルへ行けないと思う。「ある程度は出来るよ、でも揃えることはなかなか難しいよ。」って話。
出来ないことはないと思うけど、実用性が皆無だと思いますね。
ボーカルとかの場合、コンプはどちらかというとモニターしやすくするため、とか 1176 だと、そのザラつき感が欲しい、とか言われたりしますが、もうクリップゲインで波形のピーク揃えたりボーカルオートメーション書けばよくね? って思っています。
For Example 音声を用意したので聞いてみてください。
スネアのドライ音
波形から想像できる音だと思います。
では、コンプレッサーで圧縮と Make-up を施した音声を聞いていきましょう。
スネアのコンプ後の音
ゲインを持ち上げているので音量が大きくなっていますが、信号のディティールに変化がありますか?
「これはゲインを上げただけで、コンプしてねーよ!」って言う方は未熟な耳を鍛えて。それか聞くボリューム調整して。
私は 多少の強弱の差が減った と感じはしましたが、音量が揃っているようには聞こえません。
「これはレシオやスレッショルドの値が低すぎるからだ」なんて言う人向けに、もう一つ音声を用意してやりました。
疑い深い人のための音源
あ〜ら不思議、この音声や画像は 有料版 で!
聞いてもよくわからない人の為にコンプがどのように動作したのかわかる画像をここに置いておきます。
画像や音声は 有料版 で視聴できます!
知ってました? 意外と盲点なんですけど、皆さん気づいてない動作の 1 つですねぇ。
もちろんリリースタイムやアタックタイムをもう少し過激な値に変更すれば、また違った挙動をしますが、あくまで実用的なレベルのコンプレッションを利用する場合の挙動です。
もちろん音を破綻させるようなセッティングでは音量は一定に近づき、音量を揃えた、といえますが、音が破綻してしまうので、音量を揃えるためにコンプレッサーを利用することは実は全然実用的ではありません。
上記の利用法ってエンジニアは多用する?
実は上記に上げた利用方法ってエンジニア向けというより、アレンジャー、サウンドクリエイター向けの利用方法ですよね。
ハードコンプレッションや音圧を稼ぐため、という利用方法はミックスで役に立つかもしれませんが、どちらかといえば音作りの部類に関連することで、積極的にエンジニアが利用するわけではない、ということです。
もちろん、狙うサウンドがハードコンプレッションにある場合はエンジニアだって利用するでしょうが、大体がパラレル処理で利用すると思うので、ハードコンプレッションを全面に押し出した音作りはエンジニアは積極的には行わないとは思います。(もちろん案件によりけりですが、。)
音圧を稼ぐのはマスタリングエンジニアにおまかせすればいいので、塩梅の良いミックスを仕上げることを考える時、実は積極的に音圧のためにコンプレッサーを利用することはほぼありません。(個人的な意見です)
どちらかというとマスターに突っ込む前にピークを叩きたい、という理由で使うことのほうが個人的には多い気がします。音圧だったり音のディティールを変えるために利用することは個人的にはあまり少ない気がします。
でも個人的にはマスターに音突っ込みがちなので、そのコンプが結果的に音圧が上昇する原因になっているとは思います。しかし最近は -14 LUFS を目指してマスターに突っ込んでいるのでやはり音圧を稼ぐ、という理由からは遠ざかっていると思います。
しかし、私は必ずこのコンプレッサーというエフェクターを多用します。理由は「ハードコンプレッション」でも「音圧稼ぎ」でもありません。(念の為言っておきますが、その用途の場合もあります。しかし、ここではそうではないという前提でお話を進めます。)
なぜ、エンジニアはコンプレッサーを利用するのか、というもう少し根源的な説明をこれからしていきたいと思います。
私がコンプレッサーを使う理由
その壱 – エンベロープの調整
ADSR の調整が万能ではないが可能であり、音楽的に行えること。
- Attack
- Decay
- Sustain
- Release
よく順番やスペル、意味合いを間違えるので覚えるために書きます。
この章に関しては説明が不要であると思うので割愛致します。
ダンスミュージック系ではどちらかというと、ダッキングでコンプを利用しがちであるため、また違った用途が生まれてきますが、ダッキングしなくてもオートメーションで信号の上げ下げとか、EQ の ON/OFF とか色々なアプローチがあるので、ちょっと割愛。
その弐 – ダイナミクスの抑制
ボーカルの場合、過度なダイナミクスはオケに負けてしまう可能性があります。表現力豊かで非常によいのですが、楽曲によっては合わない場合もあるため、ダイナミクスを犠牲にする場合は往々にしてあります。
しかし、先程のスネアの音を聞いていただいたように、ダイナミクス的なディティールは多少減って入るものの、元の音声のディティールが過度に失われて変化しているわけではないため、コンプというものは適切に行えば非常に強い見方になるわけです。
個人的にはオーバーコンプレッションやリミッティング自体が悪いとは、到底思えません。結局はどのように処理させるか、聞かせたいのか、であり、許容を超えない (明らかに事故っている場合は除く) ようなものであれば過度な設定は利用されるべきです。が、リミッターやマキシマイザーに振り回されているから音圧稼ぎ辞めろっていうことはわかる気はします。僕はどのように聞こえるか、が重要で波形の結果自体はどうでもいいと思います。(しかし、適材適所があることを忘れてはいけません。)
ドラムの場合、正直レコーディングした環境に左右されるのですが、僕たちが普段聞いているドラムの音って、それはそれは非常に複雑な音なのです。
それを原音に近づけるためには余韻の調整が必要であったりするわけで、そのために音を圧縮する必要があります。ダイナミクスを調整すると大きかった音が抑制され、小さかった音が持ち上がります。(実際にはこの表現は正しくはないと思います。)
詳しくは以下のページを読んでみてください。ドラムサウンドの成り立ちを理解するとコンプの利用方法について理解が深まるかもしれません。
その参 – 重要: 続きは 有料記事 へ
長々と説明してきましたが、私にとってこの内容が一番重要かもしれません。
まずは、音を聞いてみましょう。
私がコンプを使う理由
処理前スネアサウンド
音量が大きいので注意 してほしいですが、ほぼ、まとめた完成にスネアサウンドです。ここから更にコンプで一工夫を加えます。
処理後スネアサウンド
すみません、量感を揃えるのが難しかったので処理後が 2dB ほど音が大きいかもしれません。音量が少し違いますが、量感が変わったというより、コンプで変化した分、音が大きく聞こえると思ってください…
しかし、違いを感じ取れたと思います。ほんの些細な違いです。わかりやすように少々極端な信号を選択しているので、音量を少し下げ目のほうがいいかもしれません。
聴き比べてなにか変わった点を発見できましたか?
参考になるかわかりませんがスペクトラムを表示しておきます。
一応 量感をある程度揃えた信号をこちらに配置しておきます。
この音声は 有料記事 で視聴できます。
私が伝えたいコンプの真実
これ以降は 有料記事 を是非、ご覧ください!
音圧の正体とは?
これ以降は 有料記事 を是非、ご覧ください!
コンプレッサーの応用
今回、ギターの信号を手に入れました。
弾いてくださいましたのは、Yuto (Earthist. / SkyLogic / Twitter) で Young Guitar 等でも取り上げられている非常に上手なギタリストです。
ギタリストにとって、コンプレッサーというのは使い時がよくわからないものだと思います。必要性が理解できない人も多いのでは?
今回はギタリストにも向けたコンプの利用方法を解説していきます。
ギターのドライシグナル
ギタリスト諸君。この信号をそのままアンプシミュレータへ入力するからドライのほうがいいと思っている人も多いでしょう。
ここでエンジニアはもっといい音にできないのか? と考えるわけです。
そこでコンプを通してみました。
コンプ後のギターシグナル
ちなみにコンプはこんな設定をしていた。(Sonible の smart:comp がお気に入り)
なんとなーく演奏が上手くなっているように聞こえないかい?
アタック感が増してギターの鳴りも良くなっているように感じる (感じてほしい!)
そして極めつけは、真空管コンプレッサー (デジタルハード処理) を実行してみた。
真空管コンプレッサーを利用してみる
今回利用したのは デジタルハードウェア処理 で真空管をエミュレートしている Antelope Audio の Gyratec X の真空管コンプレッサーを利用した。
音の違いを理解出来ただろうか? ちなみに真空管コンプレッサーはかなり過激な設定をしているので、好き嫌いが分かれるだろう。あまりいい音には感じない人も多いかもしれない。
アンプに入れた時の変化をきいてみましょう!
アンプシミュレータ後の音
それぞれ、同じ設定のアンプへ送ってみました。アンプも ENGL が好きって理由で簡単にアクセスできた Antelope Audio デジタルハードウェアエミュレートから選択。
ドライの信号をそのままアンプへ
smart:comp の信号をそのままアンプへ
GYRATEC X の信号をそのままアンプへ
違いが分かるでしょうか!? ではそれぞれ解説していきます。
参考までにスペクトラムを置いておきます。
これらの違いはなにを言いたいのか、以下説明していきます。
ギターの信号にコンプを掛けた理由
これ以降は是非 有料記事 を購入して内容を確認しよう。
今回利用した音源の仮ファイナル
このような楽曲となっております。
Produce – Naruki Konagaya (rec mix master)
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